chu-ru-lu
<3>





のどが渇いた。
真夜中に悟空は目を覚ました。普段一度眠ったら、妙な「気」を 感じる以外は、なかなか目覚めないはずなのに。珍しいこともあるものだ。
ぼんやりとした眼差しで天井を見つめ、幾度か瞬く。
ふと、指先に触れるものがあった。
何だろうと首をめぐらせてそれをたどると、 こちらに背中を向けて眠っている、チチの髪だと気がつく。髪、長いもんな。 それにしても、自分のものと比べると、随分と柔らかい。
悟空は出来るだけ振動を与えないようにベットから抜け出すと、寝室を出て、 キッチンへと向かった。
人里はなれた山の奥といっても、完全な闇にはならない。 そうか、今日は月が出てるんだったっけ。もっとも、もともと夜目が利くので、 夜中に明りが無くとも、さほどの不便は感じないのだが。
冷蔵庫の中から冷えた水を取り出し、 そのまま口をつけて飲み干すと、息をついた。
何だろう。夢を見たような気がする。
だから目が覚めたのだろうか。でも、そんな悪い夢ではなかったような気がするのだが。 どんな夢だったか、どうにも思い出せない。
ま、いっか
ひと心地つくと、悟空は再び寝室へと戻った。
音を立てないようにドアを開閉し、ゆっくりゆっくりとベットに乗り上げる。
そのまま布団の中に身を滑らせて、気がついた。
どうやらキッチンに行っている間に 寝返りでも打ったらしい。チチがこちらを向いて眠っていた。
健やかな寝息が、 薄く開いた唇の間から漏れている。
悟空は片肘を立てて、横向きに寝転がったまま、 じっとチチの顔を眺めた。





悟空は、人の容姿の美醜というのがよくわからない。
しかし 天下一武闘会のときにもクリリンが言っていたが、チチは随分「かわいい」部類に 入るようだ。
そうなのだろうか。まじまじと見つめてみるが、やっぱりよく判らなかった。
でも。
それでも。薄い月光に白い肌を浮かび上がらせ、目を閉じる様に、ほんとにこいつは ちゃんと生きてるのかなと思ってしまう。微かに肩が上下するところを見れば、 ちゃんと呼吸はしているようではあるが。何だかこうしてみていると、体が細い分、ひどく はかなげに見えた。





…睫毛、なげえなあ。





少し顔を寄せて、じっと見る。
こんなところまで 自分とは違うらしい。しかしこうしていると、その目蓋に、大きな瞳が隠されている事が、 何だかひどく惜しい気さえしてきた。
すうすうと吐息の漏れる唇を見る。
毎晩眠る前に交わすキス。ブルマが来た日から始まったから、きっと何か言われたのだろう。
どういう意図を持っての事かはよく判らない。ただチチに「夫婦になったらするもんだ」 と言われれば、「夫婦」と言うのをよく知らない悟空は、「そんなもんなのか」と 納得するしかない。だから、あまり考えず、それを承知した。
でも、チチの柔らかさを唇で感じるのは好きだ。
こんな風にこの柔らかさを感じる事が 出来るなら、ケッコンというのも、いいものかも知れないと思える。
シーツに広がる黒髪を一束、手ですくった。
普段は一つに束ねていて、髪を下ろすのは 眠る前後くらいしかない。
自分の堅い髪とは随分違う感触。こんなところまでチチは 柔らかい。
髪から手を離す。
そして出来るだけ丁寧に、触れるか触れないかの 感触で、悟空はチチの頭を撫でた。そっとそっと、まるで小動物を慈しむかのような 手つきで。自然、口元がほころぶ。
「…ん…」
低い声と共に身じろぎする チチに、悟空はぴくっと固まった。
しばし静止。
だが、どうやら起こしてしまっては いないらしい。ほっと息をつく。
もそもそとチチは温もりを求めるように、 悟空の方へと体を丸め、身を寄せてきた。どうやら手を伸ばしたので、布団がめくれ上がり、 寒かったらしい。そっと悟空は布団を掛けなおしてやる。
そして抱き寄せるように肩に手を乗せると、そのまま目を閉じた。
寝息が丁度、 鎖骨の辺りに当たってくすぐったい。ふわりと髪の匂いがした。こうして 身を寄せていると、心音までも重ねているようだ。
何だろう。
それはとても幸せな感じがした。





「チチって、睫毛なげえんだなあ」
朝食の合間、 悟空のいきなりなその言葉に、チチは目をぱちぱちさせた。




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心理学。唇による接触の愛情表現は
乳児が母親の乳房を含んだ
唇の感触の記憶から、らしいです(うろ覚え)
さてサイヤ人は?
2001.12.01







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