「似合うだか?」
胸元を少し抑え、上目使いに悟空を見上げてにこりと笑う。
本日のチチのお召し物は、爽やかな色合いのワンピース。シンプルなものだが、 少し襟ぐりが広めにカットされたデザインのものだった。
「えーっと、新しい服か?」
「もう…。それだけじゃねえだよ」
口紅だってアイカラーだって、 この夏限定の新色に変えてみた。靴だってこのワンピースに合わせて新調したものだし、 バッグだってそうなのに。
はーっ、とチチは大袈裟に溜息をついた。
「ま、悟空さにこんな事、気付いてもらおうと思うのが、間違いだべなー」
口紅やメイクを変えたところで、この朴念仁が判る訳がなかろう。そんな事、もう今更今更…。





それにしても。最近は朝夕も随分涼しくなってきた。
このワンピース、新調してたが何故か着る機会がなくて、ずっと押入れに仕舞いっぱなしだったのだ。 この調子だったら、このままタイミングを失ったまま、今年は一度も着ることなく、 衣替えを迎えてしまうかもしれない。そう思って、今日は着てみたのだが。
「結構可愛いだろ」
ふと。
じっとこちらに向けられる悟空の視線に気がつき、 チチは「何だ?」と小首を傾げた。
「あのさあ、おめえこの夏、ちっと痩せてねえか?」
珍しい。確かに、暑さにバテて食欲を無くし、ほんの少しではあるが夏痩せしたのだ。 些細なものだったのに、そういう事に無頓着な悟空が気付くなんて。
「何で判っただ?」
「えっと…いやあ、この辺が」
そう言って自分の胸元を示す。その直後、 後頭部に入ったチチの拳が、ぱこんと小気味良い音を立てた。
「しっつれいだなーっ。べ、 別に胸のサイズは変わってねえだよ」
赤い顔で怒るチチに、殴られた頭を擦りながら。
「あー、いや。そうじゃねえよ」
ここ、と悟空は、チチの鎖骨を指で突付いた。 どうやら以前より、鎖骨の線がくっきりと見えるらしい。
「それは…こんな服だからでねえべ?」
胸元が広く開いて強調されているデザインだから、 そんな風に見えるだけなのかもしれない。改めて、しかも悟空にそう指摘されると、 何だか気恥ずかしくなってきた。
ふと、傍にあったショーウィンドゥに映る、 自分の姿に目を留める。毎日目にするからか、自分ではどうも良く判らない。
それでも、コーディネイト的には。
「…ちょっと、胸元が寂しいかもしれねえだな…」





季節が先取りされ、アクセサリーショップは、殆どが秋色になっていた。
「うーん、 どんなのが合うだかなあ」
少し身を屈め、ディスプレイされたアクセサリー類を眺める。 これは可愛いけど似たようなものを持ってるし、これも良いけどちょっと他の服と合わせ難いか。
難しい顔で物色するチチを後ろから見下ろして、悟空はぱちくりと目を丸くした。
「…あ」
小さく声を上げる悟空に、何?と顔を向けるが、なんでもないと首を振る。
少し考え。
「なあ、チチ」
こんなのはどうだ? こんな時は横で一緒に見ているだけが常な悟空にしては、随分珍しい。
「どれだ?」
悟空が示したのは、綺麗な色が並ぶプチスカーフ。
「ああ、そっか…そっだな」
最近は随分涼しくなってきているし、色や素材によっては、然程暑苦しさは感じないだろう。 それにスカーフならば、これから秋にかけても活用できるじゃないか。
悟空にしては、なかなか的を得たアドバイスに、チチは早速スカーフを物色しだす。






スカーフを選ぶチチに、内心悟空はほっとする。
髪をまとめたチチの、 細く白い後ろ首筋に見つけた小さなキスマーク。スカーフを巻けば、きっとちゃんと隠れるだろう。
こんなの下手に気が付いたら、チチは怒って、当分「禁止」宣告されるに違いない。
それに、何だ。
あんまり人の目に晒すのも、ちょっとばかりもったいないし。





鈍感だ鈍感だと言われながらも、案外気を使っているのである。




end.




チチさんは、色白、美白命 日傘愛用派と見ました
2002.08.25







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