今日は二人そろって土曜出勤だった。
何だかお互い忙しいなあ、なんて笑っていて。
まあ、やっぱり遅くまでかかるだか?いや、そうでもねえけど。 だったら、切り上げる時間を合わせて、一緒に夕食でも食べに行かねえか。 そうだな、そうすっか。この間行ったあの店、秋メニューに変わったんだって。 へえ、じゃ、そこに予約でも入れとくか。





「わるい、今日はもう少し残業してくれるか?」
同僚にそう声をかけられたのは、携帯電話で悟空がレストランに予約を入れた直後だった。





携帯電話のメール送信キーを押して、悟空は溜息をついて、 最近めっきり日が落ちることが早くなった夕焼け空を見上げる。
まいったな。これできっと、また機嫌をとるのに大変か。仕方ないけど、 行くといった直後にこんなメールを送って、悪い事しちゃったかな。
瞳の大きな目を吊り上げて怒った声を上げる様子が目に浮かぶ。 でも、そんな顔さえ嫌じゃないのは何故だろう。
返事のメールが届いたのは、きっちり五分後。
予約の取り消しをしておく事と、 何時頃に仕事が終えることが出来るかと言う質問が、「全くしょうがねえなーっ」と、 顔文字を添えたタイトルと共に送られてきた。





やっと終わって伸びを一つ。
とりあえず今日の分は何とか終えることが出来たようだ。あとはこのデータを送信するだけか。
一安心に息をつき、何気に時計を見ると、案の定チチに 「終わるであろう」と連絡した時間の少し前。我ながら、 この読みの正確さに苦笑した。
さて、ちょっとコーヒーでも飲むか。 そう思って立ち上がろうとした時。
「悟空さ」
「あ…れ?」
「もう、終わっただか?」
ひょい、と扉から顔を除かせたのは、コンビニの袋を携えたチチであった。





「何にも食ってねえんじゃねえかって思って」
コンビニ袋の中から、 サンドウィッチや温めたお弁当を取り出す。
「ま、おめえなら、 夜食でもこれぐらい食うしなー」
「サンキュー、チチ」
実際夕食も何も、 昼から何も口にしていない。プラスティックの弁当の蓋を開けると、 漂う匂いに、欲求に素直な悟空の腹の虫が盛大に合唱した。笑い声を上げるチチに、 しょうがねえだろー、と照れたように言いながら、早速悟空は差し入れに ありついた。
チチは隣のデスクの椅子を引っ張ってきて、隣に腰を下ろす。
暫くは豪快な食べっぷりを微笑み混じりに見つめ、自分用に買ってきた、 ペットボトルのお茶に口をつけた。
「悪かったな、今日は」
「んー、ま、仕方ねえもんな」
最近忙しいとは前から洩らしていた事だし。
「おらが終わる時間まで、待ってたんか?」
「そうでもねえだよ」
ついでばかりに、時間延長で残業をして、 近所の書店で欲しかった本と雑誌を買いに行っていた。立ち読みしている内に、 案外時間を食ってしまい、ついでのようにここまで来たのだ。
「ま、食事はまた今度埋め合わせてもらうべ」
笑いながら軽く睨まれ、 悟空は何故か心が軽くなる。
チチは自分用に買ってきたヨーグルトを コンビニ袋から取り出した。それと一緒に取り出したのは。
「ほら、これは半分こな」
餡子のついた団子のパック。
「今日ってさ、十五夜だったんだべなー」
悟空さ、覚えていたか?
「そうだっけ?」
「ほら」
指で示す窓の外。
真ん丸い月が、ビルの狭間からぽっかりこちらを覗いていた。




end.




これは現代パラレルなので、悟空さ、変身はしません
2002.09.21







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