![]() 「ほら、こっちは終わっただ。次に行くぞ」 「うひゃー、まだあんのかよー」 「あったりめえだ。世界中の子供に配ってるんだぞ」 しかめっ面で睨みつけられ、 悟空はとほほと肩を落とす。 そりゃまあ。瞬間移動は 体力を使うものではないのだが、それでも精神集中というのは、それなりに疲れるものである。 「なあ、ちっと休ませてくれよー」 「馬鹿言ってるでねえ。 今日中に終わらせなきゃなんねえのは、おめえも知ってるだろっ」 ほら、行くぞっ。準備万端、とでも言うように、チチは悟空の腕にしがみついた。 可愛い顔して怒らせると怖いのは、もう充分に知っている。 しょうがねえよなあ。 大きな荷物を肩に担ぎ、悟空はチチの腰を抱き寄せると、立てた人差し指を、眉間に当てた。 そこに水飲み場になるような泉があるのは知っていた。 でもついさっき、そこを横切った時には生き物の気配なんて無かったし。それに、 この森は元々あまり動物が生息していない場所だから、 まさかそこに動物がいるとは思わなかった。 思いっきり衝撃波を打った数秒後、 切り裂くような一声に、悟空はびっっくりした。 やべえと声に向かって走るが、時既に遅し。 「大丈夫かっ?!」 そこには。 「なっ、何だ?今のは…」 大きな瞳をぱちくりさせてぺたんと座り込む、年端の同じくらいであろう、少女がいた。 「おい、怪我はねえか?」 「お、おらは何ともねえけど…」 差し出す手につかまり、 少女は何とか立ち上がる。ぱんぱん、と服についた埃を払い、改めて自分の体の無事を見回した。 「今のは、おめえがやっただか?」 なんだか光った丸い玉みたいなものが、 通り抜けていったけど。改めて不思議そうな瞳で覗き込む彼女に、 説明するのも面倒臭く、へへ、と笑って誤魔化して謝った。 真っ赤な服に、真っ赤な帽子と真っ赤なブーツ。 白いボアがアクセントになった、やたらと特徴のある派手な出で立ちの彼女は、 チチと言うらしい。 「この近くに住んでいるのか?」 気が付かなかったけど、 もし近くに人家があるのなら、ここでの修行は迷惑になるかもしれない。 「ううん。ちょこっと休憩しようと思って、ここに下りて来ただけだ」 そこまで口にして、はたと気が付く。 「あーっ、トナカイとプレゼントっ!」 きょときょとと周りを見回し、傍に転がっていた大きな白い袋を確認して、安堵の溜息を一つ。 「なあ、こいつか?」 こてんと横倒れのまま首を伸ばすトナカイに、チチは笑顔で走り寄った。 「大丈夫だか?」 なでなでとトナカイの体を擦ってやり、立ち上がらせるように促すが。 「…あれ?」 トナカイは立ち上がろうとはするものの、上手く力が入らないらしい。 どうやら、さっきの衝撃波に驚いて転んだときに、足を挫いたようだった。 「そんなあ」 まだ半分しか終わっていないのに。へたり込むチチに。 「急いでんのか」 「んだ…」 話を聞くと。彼女は今晩中に、世界中の「良い子」達に、 プレゼントを配らなくてはいけないらしい。 「飛行機とかじゃ、駄目なんか?」 「トナカイの赤い鼻には、良い子を嗅ぎ分ける力があるだ…」 だからどうしても、 トナカイの力が必要である。 うーん、と悟空は腕を組んで考えて。 「…なあ。良かったら、オラが手伝ってやろうか?」 「だから、良い子を見分けるのは、 赤鼻のトナカイじゃなきゃ無理だべ」 「良い子の持つ、気、を探れば、 何とかなるかもしんねえぞ」 もし、その「気」の種類さえ判ることが出来れば、 瞬間移動で何とかなるかもしれない。 最初は怪我をしたトナカイの代理だったから、一年ぽっきりのピンチヒッターだったんだよな。 なのに、結局次の年も、その次の年も…。結局チチの所に居着いてしまって、 あれからもう、どれぐらい経っただろう。 「ほら、何ぼーっとしてるだ」 とっととこっちも終わらせるぞっ。 「お、おう」 成り行きかもしれないけど、いいように使われているのかもしれないけれど。 まあ、それでも。 「全部配り終わったら、クリスマスのご馳走、たーんと食わせてやっからな」 「ほんとか?」 「出かける前に、いっぱい下ごしらえしてきただ」 にっこり向けられる笑顔は可愛いし。 一年に一晩しか働かなくても、怒られることはないし。しかも、毎日美味しい飯が食べれるし。 だから。 「ま、いっか」 「よーし。んじゃあ、さっさと終わらせっか」 気合と共に吐き出された白い息。 クリスマスの空からは、粉雪がちらつき始めた。 end. チチさんのサンタコスチュームは ミニスカートを希望いたします 2002.12.18 |