ホワイトデーというのは、何でこんな高校生にとって、微妙な日付になってしまっているのだろう。 当学校の卒業式は、三月二十一日。その丁度一週間前が、卒業生の登校日になっている。 卒業生はその登校日以後、卒業式まで用事の無い生徒は、殆ど学校に来る事が無い。 だからその登校日、当武道部では後輩による先輩への、ささやかな歓送会をする事になった。 当日、準備の為にチチは、集合時間よりも早くその教室へ向かう。 他の準備のメンバーには先に買い出しを頼んでいるし、予定の時間よりはまだ随分早い。 でも本当は、あんまり出席したくは無かった。 「…来るんだろうな…孫悟空先輩」 正直、顔を合わせ辛い。出来るなら欠席したかったけれど、でも折角の歓送会だし、 先輩は彼一人じゃないし。まあ、二人っきりにさえならなければ、 そんなに気まずい思いもしなくて済むか。 そう自分を奮い立たせ、 チチはその教室の扉を開けた。 しかし、その読みは甘かったようだ。 「よお、久しぶりだな」 からりと教室の扉を開くと、 振り返って人の良さそうな笑顔を向けるその一番会いたくなかった人に、チチは硬直した。 一ヶ月前のバレンタイン。 チチは悟空にバレンタインのチョコレートを送った。 鈍感な奴だと言う事は、充分承知している。だから、わざわざ手作りの物を渡した。 (凄く凝っていて、結構大変だった)大学に通うようになったら 今まで見たいに自転車通学は出来ないだろうから、使ってくださいとの意味も込めて、 プレゼントに定期入れまで添えて手渡した。(ブランド物で、高校生には高かった) どんな鈍感にでも、「義理じゃあここまでしないよな。やっぱり本命に間違いないよ」 と思われるようにした。(だって、告白する勇気なんて無くって、 それを手渡すだけで精一杯だったから) 渡した時、彼はびっくりしていたようだった。 「ほんとに貰っていいのか?」 なんて聞かれたから、黙って頷く事しか出来なかった。 なのに、一切それから音沙汰無しだったんだな。 この天然大ボケ鈍感脳味噌筋肉馬鹿野郎は。 そりゃあ時期も時期だから学校にはなかなか来れないし、何かと忙しそうだし、 タイミングがないことも判っている。 だからありったけの勇気を振り絞って、 歓送会の連絡をだしに、連絡網片手に自宅まで電話をしたのだ。しかし電話口に出てきたのは、 悟空の祖父。部活の件で、お伝えしたい事があるから、とわざわざ姑息ながら理由をつけて、 代わってもらうように伝えると、どうやら彼は「不在」だと言うのだ。 夜も十時を回った頃なのに、卒業と進路が決まったと思ったら、なーに夜遊びしてるんだか。 そんな心の叫びをぐっと堪え、また連絡するからとその日は電話を切った。でも翌日も、 更にその翌日の電話にも、悟空は出やしない。 結局、五日連続の不在を申し訳無さそうに 伝える彼の祖父に、部活の連絡だけを伝え、以後は全く音信不通だった。 「な、なんで、こんな早く来ただよ」 「おめえ、早めに来ると思って」 準備とか、任されてるんだろ?ウチにも電話してくれてたし。 「悪かったな、 電話に全然出れなくって」 何か怒鳴ってやりたかったが、何だかそれも馬鹿馬鹿しく思える。 いいんだ、別に。それならそれで。 「でさ。やっとバイト代、入ったんだ」 結構稼いだんだぜ、この一ヶ月殆ど休み無しで、深夜までバイトしまくったんだから。 にこにこ自慢気に話す悟空に、チチはめをぱちくりさせる。 「電話に出れないって…」 だからだったのか? 「折り返そうと思ったけど、おら家に帰るの、ずっと十二時過ぎてたしな」 幾らなんでも、女の子の家にそんな時間に電話するのもまずいだろ。昼間はおめえ学校だし。 「おめえ。何が欲しい?」 おら、女が欲しがるようなもんって、 イマイチよく解んねえんだよな。 ぽかんとした顔に、にっと悟空は笑う。 「今日、ホワイトデーだろ」 その為に、一ヶ月間頑張ったから。 「連絡しなくて、悪かったな」 「…ほんとに悪い奴だ」 こんなに女の子をやきもきさせて。 end. 中学の時、ホワイトデーが 最後の登校日だったような… 2003.03.04 |