城から離れた、不思議の森。
ここには七人の小人と、 チチと言う名の白雪姫が住んでおりました。





「チチー、はらへったー」
「なあなあ、チチー」
「おら、しんじゃうぞー」
わらわらと足の周りに集まる七人の小人達に、白雪姫チチは「ああ、もう」と声を上げました。
「すぐできっから。ちゃんと大人しく待っているだよ」
ほら、おめえは皿を出して。 で、おめえはスプーン。そっちのおめえとおめえは、テーブルクロスを敷いてけろ。
てきぱきと指示を出すと、「わかったー」「よし」等と聞き分けの良い声を上げながら、 小人達は言われた通りに、チチのお手伝いをします。
そんな賑やかな小人達に、 チチは小さく微笑みました。





思い起こす事ウン年前。
白雪姫チチは、城の権力騒動に巻き込まれ、 継母に城を追い出されてしまいました。その時、この森に迷い込み、 子供の姿をしたこの七人の小人達に助けられたのです。以来、こうして、 まるで一気に七人の子持ちにでもなったような、森での生活を続けていました。
もともと、窮屈でどろどろとした権力抗争のある城の生活は、 チチには馴染めるものではありませんでした。むしろこうして、七人の小人と一緒の、 のんびりと気ままな今の生活の方がとっても楽しく、彼女の性に合っているのです。
「そーいえば、あっちのおしろで、けっこんしきをしてるんだって」
森の動物達と話が出来る小人達は、彼らから聞いた話を、チチにも教えてくれます。
「きのう、わたりどりがおしえてくれたんだ」
「すっげーおまつりしてんだってさ」
「けっこんって、なんだ?」
各々が話すそれらを総合すると。どうやら、 城を追い出されたお姫様が、悪い魔女に毒林檎を食べさせられ、それを王子様が助け、 そのまま二人は結婚したそうです。
まるで御伽噺のようなその話に、チチもへーえ、 と感心しました。
「そんな作り話みたいな事も、世の中にはあるもんなんだなあ」
今は七人の小人の母親みたいな生活をしていますが、チチだってまだ未婚の、歳若い娘さんです。 ロマンティックで素敵な恋物語に、やはり乙女らしい憧れも抱いています。
「そーいえば、チチもむかし、おひめさまだったんだろ?」
きょとんと覗き込む小人に、 チチは苦く笑いました。
「そっだな」
「なあなあ。チチってやっぱし、 おうじさまっつーやつとけっこんしたいのか?」
「おしろにけえりてえのか?」
確かに。城での生活云々はさておいて。そんな夢みたいな恋愛には、 それなりに憧れてしまいます。
「でも、おめえ達がいるからな」
こんな、 いつも腹を空かせてばかりいるおめえ達を放っておいて、結婚なんか出来ねえだよ。
ころころと笑い飛ばすチチに、七人の小人は顔を見合わせました。





「なあなあ、チチ」
天気の良い青空の下。七人分の洗濯物を済ませた頃。 はたはたとはためくシーツの裾から、小人が一人、ひょっこりと顔を出しました。
「どうしただ」
「こっち、きてくれよ」
ほらほら。子供の小さな手が、 強引にぐいぐいと引っ張ります。
そのまま、連れてこられたのは、小屋の裏手。 そこには、他の小人達もいました。
「きたきたー」
「チチー、こっちだこっち」
わらわらと小人達はチチを囲い込み、そのままそちらへと連れて行きます。
「ほら。ここ、ここ」
示されたのは、綺麗に飾り付けられたベッドのような台。 干草の上にシーツを敷かれ、その上には綺麗な花が飾り付けられていました。
「チチは、ここに、よこになるんだ」
何が何だか判らないまま。それでも言われるままに、 チチはベットに腰を下ろし、体を横たえました。
「何なんだ?これは」
「あのさ、 このまえいっていいただろ?」
城を追い出されて、森に小人に助けられたお姫様の話を。 それを真似て、小人達はお姫様の棺を作ってみたのです。
「どくりんごは、 チチにはたべさせらんねえから」
「ほら、め。とじねえと、おうじさま、たすけらんねえぞ」
ぱたぱたと小さな手で肩を叩かれて、催促されて。チチは笑いを堪えながら、 それでも小人達の「お姫様ごっこ」に付き合う為に、大きな瞳を閉じました。
「これでええだか?」
「ああ、ちっとそのまんま、まってろよ」
ひそひそ、くすくす。七人の小人達の、ささやかな内緒話。それを、耳にくすぐったく聞いて、 じいっと身じろぎせずに待っていると。
頬に触れた、柔らかい唇の感触。
びっくりしたチチが、ぱっちりと瞳を開きます。
「チチがいきかえったぞ」
わあっと声を上げる小人達。
その内の一人が、王冠に見立てたシロツメクサの花冠と、 マント代わりのシーツを纏い、上からチチを覗き込んでいました。
どうやら彼が、「王子様代表」の模様です。


「おらたち、おうじさまじゃねえけど」
「でも、チチがだいすきだからな」
「ずっと、この森にいてくれな」
「おら達と一緒にいてくれな」


思い思いの言葉を、順番に告げて。
小人は、手に持っていた不器用な造りの蓮華の花冠を、チチの頭上に丁寧に乗せました。





end.




七人の小人は、フュージョンすれば
大人になれそうですね
2004.03.11







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