その森には、とても美しい白雪姫と、七人の小人が住んでおりました。 その日。 太公望王子は馬に乗り、城の近くにある森を、一人で散策しておりました。 麗らかな天気にのんびりと馬を進めていると、何やら奥の方から泣き声が聞こえてきます。 それも、一人二人ではなく複数人、しかもどうやらそれは、幼い子供のもののようでした。 気になった太公望王子は、そちらの方へと向かいます。やがて、森の中から、 小さな小屋がひょっこりと姿を見せました。 そして、その小屋の前には、 これまた小さな子供の姿をした小人が七人、頭をそろえてわあわあ泣いて、 悲しんでいます。 「どうしたのだ、おぬし達」 太公望が声をかけると、 小人達は一斉に顔を上げました。見ると、青い髪をした小人達の頭には、 羊のようなくるりとした巻き角が覗いています。 「何を、そんなに泣いておるのだ」 馬を降り、驚かせないようにゆっくりと近付きます。 すると、 七人の中でも一番ぼろぼろ涙を流していた泣き虫小人が、ぱたぱたと走り寄り、 太公望の膝にしがみ付いて泣き声を上げました。そしてそれに合わせる様に、 他の六人も、わらわらと太公望に走り寄り、太公望に泣きつきます。 訳も判らず泣き付かれ、太公望はオロオロしながら、それでも宥めすかせて、 七人の小人達から何とか話を聞き出しました。 要領を得ない幼い小人達の話を纏めると。 小人達は、白雪姫と名乗る人間と、この森で楽しく暮らしていたそうです。 しかし、白雪姫の美しさを妬む継母の策略に落ち、白雪姫は毒林檎を食べて、 喉を詰まらせ死んでしまったと言うのです。 「…で、こやつがその、白雪っちゅー奴かい」 七人の小人達に腕を引っ張られ、 太公望王子は白雪姫が安置されている、硝子の棺まで案内されました。 こくこくと各々頷く小人達に促され、王子は棺を覗き込みます。 成る程、 中で睫を伏せて横たわる姿は、今まで王子が見た事も無い様な美しい顔立ちの持ち主。 長い蒼髪に縁取られた面は彫刻のように整い、肌は雪のように白く、 一度目にすると忘れられなくなるような美貌です。 でも。王子の心に疑問が一つ。 これはどう考えても。 「…男ではないのか」 何故、白雪「姫」なのだ? 周りを取り囲む小人達に尋ねるが、王子の質問の意味が判らないのか、 皆小首を傾げて瞬きするだけ。それよりも、姫を何とか生き返らせて欲しいのか、 催促するようにマントや袖や服の裾を、七人はつんつんと引っ張ります。 残念ながら王子は、医学に詳しい訳でも、魔術を扱える訳でもありません。 第一、死んだものを生き返らせることができるのは、神様ぐらいなものでしょう。 それでも、期待を滲ませた縋る瞳を七人分向けられて、 何とかしてやら無くてはと考えを巡らせ、白雪姫を見下ろします。 それにしても、随分生き生きとした死体だのう。まだ死んで間もないとは言え、 肌の色もつやつやしておる。もしかすると、死んだというのは子供の小人達の勘違いで、 ただ眠っているだけだったりして…。 そう思いながら、まじまじと見つめる為に、 王子は白雪姫に顔を近づけたその瞬間。 「―――のわあっ」 死んだはずの白雪姫の腕が、 ぐわしと太公望王子の頭を掴み、そのまま強行、問答無用にふたりの唇は、 そりゃもう深く重ねられてしまいました。 その濃厚なキスシーンに、 周りの小人達は顔を赤くして、ちっちゃな両手で目を隠します。 ぜえぜえと息を切らせる太公望が目を開くと、そこにはにっこり笑った美しい白雪姫の顔。 「貴方が、僕を助けてくれたのですね」 白雪姫はうっとりとした表情で、 優しく優しく太公望の頬を撫でます。 一体、何の事だ?ぱくぱく口を開きますが、 先程の激しく長い口付けでパニックになった王子は、思うように言葉が出てきません。 そんな事はお構い無しに、白雪は華奢な王子の体を、力いっぱい抱きしめます。 「貴方の真の愛で、僕は生き返りました」 もう離しません。一生貴方について行きます。 「ご恩は決して忘れません。これからは、僕が貴方を幸せにして見せます」 任せてください、僕は天才ですから。 ぎゅうぎゅうと締め付ける腕の力に窒息しかけ、 頭が朦朧としている太公望王子に、否定の言葉など出せる余裕はありません。 何かが違う。 ぐったりした体を、逞しい腕に抱きしめられながら、 そう思わずにはいられない太公望の周りにて。 七人の小人達は、 抱き合う二人に祝福の歓声を上げておりました。 end. 皆揃って確信犯 2004.03.10 |