目の前に置かれた、クラシックな形のランプ。
曇ったそのランプを軽く擦ると、 もくもくと煙が噴出しました。
そしてその中から、魔法の力を持つランプの精が現れました。





「おらは、伝説の超ランプの精だ」
金に輝く髪を逆立たせ、不思議なオーラを放つランプの精は、 翡翠の瞳を瞬きさせて、チチにそう名乗ります。
「ランプの精?」
そうだ。頷くと、 にっと笑いました。そして。
「おらが、おめえの願いを、三つだけ叶えてやる」
さあ、願いを言ってみろ。どんな事でも叶えてやっぞ。
促され、チチは小首を傾げます。 叶えて欲しい願い事ねえ。
「…なあ、どんな願い事でもええだか?」
「ああ」
だったら、まず一番最初に頭に上げるのは。
「悟空さが、 ちゃんと働きますようにっ」
びしっとこちらを指差して、 きっぱりとした口調で告げられるその願いに、ランプの精はたらりと汗を流します。
「あー…それは…」
もごもごと口篭る様子に、チチは胡散臭そうに片眉を吊り上げます。
「おめえは、何でも叶えてくれるんだろ?」
さあ、さあ、さあ。今、すぐ、ここで、 願いを叶えるだよ。
ずずいと詰め寄るチチに圧倒されつつ、ランプの精は引きつった笑いで、 誤魔化すように視線をさ迷わせます。
「えーっと…じゃあ、ほ、他はねえんか?」
「その願いは叶えてくれねえのか?」
じゃあって何だ、じゃあって。
半眼で睨みすえる彼女に、ランプの精は明後日の方を見ながら。
「も、 もう一つの願いは何だ?」
叶えたい願いはあるだろ?まあ、あれだ、 まずはそっちを叶えて見ようや。
そんなランプの精の言葉に、唇を尖らせながらも。
「そっだなあ…」
腕を組んで、チチは考えます。
「…じゃあ。悟飯ちゃんと悟天ちゃんが、 ずっと元気でいられますように」
「あいつらだったら、大丈夫だろ」
二人とも、 充分体を鍛えているし、自分の身を守れるだけの力もついている。おめえが心配する事はねえよ。
「じゃあ、悟飯ちゃんと悟天ちゃんが、幸せになりますように」
「…それも、なあ」
さっきのと、あんま、変わってねえじゃねえか。
「…じゃあ、悟飯ちゃんと悟天ちゃんが…」
言いかけるチチを遮って。
「あのさあ、そんな事じゃなくて…」
もっと、 別の願いがあるだろう?
その言い回しに、むうっとチチは頬を膨らませます。
「おめえ、何でも願いを叶えてくれるんだろ?」
だったらいちいち文句を言わず、 ちゃんとおらの願いを叶えるだ。おめえにとっては「そんな事」かも知れないが、 おらにとっては、もの凄く大切なお願いだべ。
憤慨するチチに、 そうじゃなくて…と首を振ります。
「おめえの為の、願いはねえのか?」
折角、 どんな願いも叶うんだぞ。チチの望みを聞いていると、どれも他の誰かの幸せばかり。 家族ばかりに幸せを願い、自分に対する願いを出さないのです。
「折角おめえの目の前に現れたのに、これじゃ意味がねえじゃねえか」
ちょっとつまらなそうに唇を尖らせるランプの精に、チチはくすりを笑います。


「おらの願いは、みんな悟空さが叶えてくれたからな」


結婚して、子供が生まれて、家庭を作って。子供の頃からのそんな願いは、全部悟空さが、 叶えてくれたからな。
少女の様に笑ってそう言う彼女に面食らい、そして何処かむず痒い顔で、 ランプの精はちぇっと舌打ちをします。
「だったら、最期の願い事は、どうすんだよ」
おらは、おめえの三つの願いを叶える為に、こうして出てきたんだぞ。おめえの願いを叶えなきゃ、 おらは超ランプの精から、普通のランプの精に戻れねえじゃねえか。
拗ねたようなランプの精に、チチは困ったように笑います。うーん、と少し考えて。
「じゃあ、一つだけ」
これなら、誰の為でも無い、自分への願いだべ。
「何だ?」
期待に満ちた顔のランプの精を、チチは酷く真摯な瞳で見つめます。そして、最期の願いは。
「おらを、もっともっと強くしてけろ」





「おら、悟空さや悟飯ちゃん達を守れるだけの力が欲しいだよ」





「…そいつは難題だな」
困ったように、ランプの精は苦笑します。だって彼女は、 それでなくても凄い力を持っているのですから。
「無理だか?」
上目使いに覗き込むチチに、 ランプの精は笑って首を横に振ります。
「一つだけ、方法があるぞ」
これをすれば、 何の力を使わずとも、一発でノックダウンされる事間違い無しだ。
「どうすればええだか?」
嬉しそうな彼女に、ランプの精は笑いながら、自分の頬を指差します。
「ここ」
ここにキスしてくれれば、間違い無く一発でやられちまうし、しかも、 もの凄え力になるんだけどなあ。
へらへら笑う超ランプの精に、チチは呆れて溜息をつきます。 全く、この男は一体何を言っているんだか。
「…そうすれば、おめえは超ランプの精じゃなく、 普通のランプの精に戻るんだな?」
「ああ」
少し考え、大袈裟に溜息をついて。
「仕方ねえなあ」
だったら、ほら。もう少し屈んで、目を瞑ってるんだぞ。
そう言いながら、 チチはそっと超ランプの精の肩に手を乗せます。
「ええか。良いって言うまで、 絶対目を開いちゃ駄目だぞ」
「解ってるって」
絶対だぞ。念を押して、 彼が目を瞑ったのを確認すると、チチは肩に手を乗せて、つま先立ちます。





これだけで、ノックアウト間違い無し。





end.




何で、こんな遠まわしに強請るんだべ
2004.12.01







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