日本が、男性であり、女性でもあります。
プロイセン消失ネタを含みます。
国名、人名を混合で使用します。
歴史&戦争&宗教ネタを含みます。
史実や時候列を、非常に都合良く改変しております。
流血&暴力的な描写があります。
物語の性質上、差別的な表現があります。
オリキャラが多数登場します。


以上を踏まえた上で、全てを許せる心の広い方、
あくまで二次創作の妄想として楽しめる方のみ閲覧ください。















































そう。
これは、最初で最後のチャンスなのだ。

















黒鷲は東の未来より舞い降りる
<1>











「あ、ほら。あそこあそこ」
国際空港の一角、先にその姿に気が付いたのは、イタリアであった。
「菊ーっ」
ぶんぶんと手を振って声を上げるイタリアに、公共の場で大声を出すな、背後のドイツが低い声で諌めた。 オープンカフェのカウンターにて珈琲を立ち飲みしているあちらは、軽く手を上げて笑顔で応える。
だが、そのすぐ横。目に入ったその姿に、駆け寄ろうとしたイタリアは、あれ?と目を丸くした。 その後ろから見たドイツも、一瞬どきりと目を瞠る。
小柄な友人の隣には、すらりと背の高い青年が並んで立っていた。 彼は紙コップの珈琲を飲み干すと、何かを日本に告げ、足元に置いてあった大きなバッグを手に取る。 そしてイタリアとドイツが到着する前に、そのままその場を離れた。
あちらへと去りゆく彼を、日本は笑顔で手を振って見送る。
「誰、知り合い?」
きょとりと首を傾げるイタリアに、菊は否と首を横に振った。全く見知らぬ人だ。 たまたまここで一息ついている間に、目が合い、少し会話を交わしただけである。
「日本人じゃ無かったよね」
遠目に見ても判る。 肌の色、顔立ち、体つき、そして何より、一般の日本人には殆ど見かけないであろう、あの髪の色。
「ドイツの方だそうですが、ずっと日本にいらっしゃったそうです」
御両親の仕事の関係で、幼い頃からずっと日本に滞在しているとおっしゃっていました。 だから日本語も随分流暢な方で、時間待ちの間、少しだけお相手して頂きました。 何でも、お医者様だそうで、学会でこちらに帰国していたそうです。
「彼ね、好きな人の見えなくなった目を治療したくて、医学を志したそうです」
「ほう」
「わはー、ロマンティックだね」
本当に。とても素敵な話ですよね。小さく笑って日本も頷く。
あいつ、昔っから本が好きな奴でさ。しょうがねえから、いっつも俺が読んで聞かせてるんだ。 でも、今度の手術が成功してあいつの目が治ったら、それも終わっちまうかもな。 酷く優しく、とても嬉しそうに、そしてちょっぴり残念そうに、そう言って彼は笑っていた。 きっと彼らは、とても素敵なカップルなのだろう。
「正直、羨ましい気がします」
「何が?」
「彼のように…好きな人の為に、自分の人生を決定出来る事が」
好きな人の目を治したい為だけに、医者になる決意をした彼の生き方が。
想いを寄せるたった一人の為に己の生き方を決めるだなんて、自分達にはとてもできない事だ。 国である以上、個人的な感情を優先させて己を投げ出してしまえば、その存在理由が覆されてしまう。
否、それでも―――大切な後継者の為に消えた国は、確かにあったけれど。
遠くを見つめる横顔に、イタリアは僅かに眉根を寄せる。 その深みのある瞳には、きっと目の前にある景色とは違うものを映しているのだろう。 背後に立つドイツもまた、ここにいない姿を瞳に浮かべているに違いない。
「…綺麗なプラチナブロンドの人だったね」
「ええ」
日本は、いつもその色を追っていた。
恐らく本人に自覚は無いのだろう。 しかし共に行動していると、多少聡い物であるならば、直ぐに気付く事が出来よう。 例えば、欧州に来る時、自国から出た時、国際色豊かな場に赴いた時、人の多い場所に居る時、 日本の視線は無意識にその色を探している。
消えてしまったあの時から、ずっとその影を探しているのだ。 無自覚に、条件反射に、ひたむきに、一途に…。
「すいません。お忙しい中、わざわざ迎えに来て頂いて」
改めまして、お久しぶりです。姿勢を正して向き直ると、日本は丁寧に頭を下げた。
「いや、よく来てくれた」
こちらこそすまないな、わざわざ遠路はるばる足を運んで貰って。 その言葉に、いえと日本は首を横に振る。
「このような式典にお招き頂けるなんて、とても光栄です」
正直、欧州国なら兎も角、まさか自分が呼ばれるとは思っていなかった。 連絡が来た時は、随分驚いたものだ。
「もー、何言ってんだよ。日本を招待するのは当然だって」
確かに距離は離れているけれど、歴史的にも政治的にも、凄く深い関係で結ばれていたんだよ。 日本は謙遜し過ぎなんだって。憤慨するように声を上げるイタリアに、その通りだとドイツも頷く。
「君には今回の式典には、是非参加して欲しかった」
もうここには居ない、大切な仲間だったあの人も、きっとそれを望んでいる筈だから。 生真面目に断言するドイツに、日本は柔らかく目を細める。
「早いですよね…あれからもう二十年ですか」
「ああ…」
時代の激動に流され、東と西に分断された国家が再び統合を果たしてから、今年で丁度二十年だ。 今回の訪独は、その節目に当たる年を記念して開催される、記念式典への参加の為である。
長かったようで、それでもあっという間の二十年であった。 振り返るそれぞれの脳裏には、それぞれの思い出と共に過ぎる、今はもう消えたかの姿。 統一を果たした直後に解体された、既に存在しない亡国の面影。自然、三人の視線は遠くなる。
暫しの沈黙の後、くすんと鼻を啜ったのはイタリアだった。 俯いて目を潤ませる彼に、イタリア君…背中を軽く宥め、 日本は落ち着いた仕草でハンカチを取りだし、その目元を拭ってやる。 そして気遣うような視線をドイツに向け、目が合うと、眉尻を下げてにこりと笑った。
あいつはな、嬉しい時も、怒った時も、そして悲しい時も笑顔になるんだぜ。 消えてしまったあの人から、そんな予備知識を授かったのはもう随分前だ。
実際その通り、日本は決して悲しむ様子を見せなかった。 そんな彼に眉を潜め、首を傾げる諸国がある中、しかしドイツには、その心中が判るような気がした。
彼は決して悲しみを口に出さない。出すつもりも無いのだろう。 静かに佇み、そっと内に秘め、周囲に気を使って、黙って耐え忍ぶ…そんな国民性が、寧ろ痛々しかった。
口下手で、朴念仁との自覚から、彼に掛ける上手い言葉が見つからない。 こんな時、あの人ならば何と言うのだろうか…そこまで考え、そっと首を横に振った。 ああ、今だに自分は、心の何処かで彼に頼る節がある。
「…行こうか」
時差もある事だし、君も疲れているだろう。良ければ、家で少し休むと良い。
「ありがとうございます」
「今夜は俺がディナーを作るから。菊はゆっくりしててね」
「それは楽しみですね」
すっごく美味しいのを作るから、期待しててよ。それは構わんが、あまりキッチンを散らかすんじゃないぞ。 そうそう、お土産に和菓子をお持ちしました。わはー、じゃあ今夜のデザートはそれだね。 いつも済まないな。いえいえ、こちらこそいつも気遣って頂いてしまって。
並んで歩きながら交わす、いつもの会話。 そんな中、一歩遅れた位置から二人について行く日本の耳に、かちゃり、と小さな金属音が届いた。
あれ?足を止めて振り返る。音源は直ぐに判った。 少し後ろ、床の上に落ちていたそれに、日本はあっと声を上げる。
慌てて数歩戻り、腰を折ると、そっと大切にそれを手に取った。ほっと息をつく。 良かった、音が無ければ気付かぬまま、行ってしまう所であった。
これは、普段は自宅の倉庫に、大切に大切に保管していた宝物である。 しかし今回の訪独は、二十年という節目の祭典の参加でもあり、どうしてもと思って持って来たのだ。 決して無くさないようにと敢えて身につけていたのだが、こんな所で落としてしまうとは、 これは気をつけなくてはいけないな。
そこまで考え、はたと気がつく。
そっと日本は襟元へと手を当てた。今回は公式訪問の為、グレーのスーツを着ている。 ネクタイを締めたその内側、シャツの中に収めて、外から見えないように、これを首から下げていた筈だ。 なのに何故、それらをすり抜けて、どうやって床の上に落ちたのだ?
両手で広げてチェーンを確認するも、何処にも切れた様子が無い。 それどころか、鎖は輪に繋がった状態のままだ。
まさかこれは、自分の物ではなかったか? 襟元から指を差し込んで確認するも、やはりぶら下げている筈のそこには無い。 くるりとそれを裏返すと、背面に刻まれた文字は、間違いなく自分の持ち物であることを示している。
どう言うことだろう。
「菊?」
「どうした」
足を止めたままのこちらに、ドイツとイタリアは振り返る。いえ、何でもありません。 手に持ったそれをしっかりと握り締め、日本は笑って首を横に振った。
―――その直後。
「…え?」
ずん、と腹の底へと響く地鳴り。続いて足元から突き上げるような激しい衝撃。
がらがらと何かが倒れる音。ぱん、と硝子の破裂音。騒然とする空港内。館内の照明が点滅する。 バランスを取るのがやっとの状態に、空港内の人々も、何かに掴まり、座り込み、横倒れた。
地震?まさか。この大陸の内地において、これだけの規模はあり得ない。 ならばこの振動は爆発か?事故?それともテロ?どこから?
うわあ、声を上げてイタリアが床に手をついた。
「イタリア、大丈夫か?」
「ドイツさん、これはっ」
顔を上げた瞬間。


背後から迸る目が眩むほどの閃光に、全ての視界は一瞬で奪われてしまった。









































第一印象は鮮烈で有った。
開国して数年、自分の知らぬ海の外には、自分とは全く違った色を身に纏う人種が存在する事を知った。 勿論鎖国前や鎖国の最中でも、一部の諸外国とは繋がり続けていた為、全く知らなかった訳でもない。 しかしそんな中でも、彼の持つ彩りは群を抜いて特殊であった。
服の上からでも判る引き締まった筋肉。すらりとした手足と立ち姿。 月明かりのように透ける白銀色の髪。そして何より、真正面から向けられたその瞳に思わず目を瞠る。
魅入られた、と称しても過言では無かろう。
まるで伝承に現れる魔性のようなその輝きに、確かにあの瞬間、目を奪われてしまった。 この世に二つとないような、極上の宝石のきらめき。王者の自信を纏った、至高の輝き。
そう、彼が。彼こそが、欧州に名立たる軍事強国―――。
「プロイセン王国だ」
にやりと細められた瞳が、不遜にこちらを見下ろす。 射抜くようなそれは、未だかつて見た事も無い、強い意志を秘めた深い深い紅玉色であった。











この世に二つとない、永遠に失われた筈のロストカラー。
二度と見る事が叶わぬ、幻の紅玉色。


その筈なのに。























はっと開いた瞳に―――その色が重なった。











「お、めをひらいたぞ」
紅玉色の瞳をくるりと瞠り、思わず声を上げる。ほらほら、見てみろよ。 嬉しそうにこちらを振り仰ぐ彼に、その護衛の任を務める騎士団の青年は、やや困り顔で眉を潜めた。
全く、突然馬を下りて走り出したと思ったらこれだ。なーんか、声がする。 そう言いながら、戦火の燻る村の瓦礫の中、見つけて拾い上げたそれに溜息をつく。
そんな反応に不満を感じたのか、彼はまあるい頬をぷうと膨らませ、唇を尖らせて突き出した。 その表情は、やんちゃな容姿と相俟って更に幼い。余りにも幼過ぎた。
「いいじぇねえか、どうせこれからもどるんだろ」
向かう先の修道病院は、管轄の中でもかなり大きく、確か戦災孤児を受け入れる養護施設もあった筈だ。 修道院長は信頼に足る人物であるし、そこに連れて行こう。
「異教徒を連れて帰るつもりか」
ここに居たという事は、つまりこの村に住んでいた、異教徒の子供なのだろう。 そんな子供を、我等の修道院に入れる訳にはいかない。
「こーんなこどもに、いきょうのおしえなんて、わかるわけねえよ」
まだ生まれたばっかりだぜ、こいつ。こんな目も見えているのか判らない新生児に、異教徒も何も無かろうに。 よしんばそうであったとしても、今からきちんと改宗させれば良い話だ。
しかし騎士は、重々しく首を横に振った。
「その子は、異民族だ」
新生児とは言え、肌の色も、髪の色も、我等とは異なる。 恐らくは、今猛威を奮っている、タタールから流れて来た血筋であろう。
「かんけえねえよ」
「否、お前は判っているだろう」
志を同じくしているに関わらず、言葉が違うだけで、ドイツ人というだけで、我々はいつも二の次の扱いを受ける。 お前が誕生した経緯だって、そもそも同じ十字軍である筈なのに、 フランス人やイタリア人らと同じ待遇を受けられぬ兵がいたからではないのか。
犬猫のように子供を拾うのも良い。命を尊ぶことは大切だ。 しかし、その中途半端な正義心は、時に酷く残酷なものになる。
今ここで命を助け、我々の修道院に参加させたとしよう。 しかし、どれだけ心を配ろうが、どれだけ努力しようが、どれだけ敬虔な信者になろうが、 異なった見目は変わることなく、その子供は生涯異民族としての扱いを受けることとなるのだ。 この幼い精神は罪も無く、様々な理不尽な不当に立ち向かわなくてはいけなくなる。
異民族として扱われる苦しみを、判らないとは言わせない。 自分達はそう言った迫害を受けていた、そして与えていた。その事に今更弁明は無い。 それこそが、今の我々の存在理由である。
「捨て置いた方が良い」
その子の為にも。お前の為にも。
厳しい正論に、特異なる色の瞳を瞬かせ、腕の中に収まる幼子へと視線を落とす。 ぱちぱちと瞬きする瞼の狭間から垣間見える、漆黒色の瞳。 じいっと向けられる視線は逸らされぬまま。もしかすると、こちらが見えているのだろうか。
まあるい頬を掌で撫でると、粗末な布に包まれた身体が身じろぐ。 ぱくぱくと何かを訴えるように動く唇。 そして、内側から伸ばされる、小さく、頼りなく、ぷくぷくとえくぼの付いた、そのいとけない掌。
「…いや、こいつはつれていく」
「おいっ」
「だって、これをみろよ」
顔を顰める護衛騎士に不敵に笑うと、抱きかかえる子供を、背伸びしながらよいしょと差し出した。
受け取ると、そっとその小さく丸まった拳を示される。柔らかなそれが、しっかりと握り締めているのは。
「これは…」
「な?」
間違いねえよ。こいつはきっと、神が我らに遣わした特別な命だぜ。
むっちりとした手首には、質の良い細身のチェーンがくるりと巻きつかれている。 その先、生まれて間もない無垢な掌が握るのは、黒十字のペンダントであった。
我らが紋章であるこのクロスを、何故この幼子が持っているのか。 絡まらないように丁寧に子供の手から絡まるチェーンを外すと、艶やかな光沢のあるそれを確認する。 形もバランスも、我等と同じと見て間違い無い。 丁寧な作りの黒十字のペンダントは、大切に扱われていた様子が窺えた。
しかし一体何故、この異教の村の赤ん坊が持っている? 不審な面持ちで眺め、何気無くくるりと裏返したそちら側に気付き、騎士は眉間に皺を寄せた。
「裏に、何か彫ってある」
どうやら文字であるようだ。
「みせてみろ」
聖職者なら兎も角、文字が読める騎士は少ない。 クロスを受け取り裏面を確認すると、成程、確かに文字が刻まれていた。 もしかするとこの子供は、かなりの有識者層の血筋かもしれない。
まず、刻まれているのは四桁の数字。1、9、9、0、とは何か意味があるのだろうか。 そしてその下に並ぶアルファベットは。
「き、く、へ、ささげる…か」
片眉を上げた。キクとは何だろう。
「どうやら女の子のようだな」
「…もしかすると、こいつのなまえか?」
キク、キクか。幾度かその音を呟く。うん、悪くない響きだ。にっと笑う。
「よーし、おまえは、キクだ」
良い名前だろう、キク。
手に持っていた黒十字のペンダントを、恭しくその首にかけてやる。





馬上へ上がると、青年騎士から受け取った赤ん坊を、黒十字を縫い取った白いマントで包み込む。
この世界に落とされたばかりの、小さく、か弱く、真新しい命。 それを、まだ幼きドイツ騎士団は、未だ成長し切らない不器用なかいなで、そっと抱きしめた。








ブログにあった小ネタの書き直し&修正です
大変なネタに手を出してしまったぞ;
2011.04.30







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