黒鷲は東の未来より舞い降りる <16> 決死、との表現に偽りは無かった。 ここで敗北すれば未来は無い。 しかも長引く事になれば、資源も資金も持たないこちらの不利は明らかだ。 ぐずぐずして隙を見せれば、必ずそこに付け込まれる。 ならば、その暇さえ与えぬよう、極短期戦に持ち込むしか勝ち目は無い。 だから、この一戦に賭けた。 持ち得る何もかもを凝縮させて挑んだ海上戦は、見える部分も、見えない部分も含め、正に総力戦であった。 「君の相手している場合じゃなくなっちゃった」 「まあ、いいや。また今度ね」 国力、軍事力、経済力…二つの国には、歴然とした差があった。 注目する世界の誰もが、日本の敗北を疑わなかった。 故に、その予想を大きく覆した事実に驚愕した各国新聞社が、確認の為に発表を遅らせる程であった。 日露戦争―――後年、第零次世界大戦とも称される、後の二度に渡る世界大戦の切欠を作った戦争である。 「何故だ」 鍛冶道具を振るう手を止めて、菊は後ろを振り仰いだ。 待ち構えるのは、腕を組んで見下ろすしかめっ面。 不機嫌さを滲ませたそれに、菊は困ったように笑った。 彼は、忍び道具を作成する菊に場所と道具を提供していた、この武器工房の親方である。 街でも指折りの腕を持つ武器職人であった彼は、ドイツ騎士団に武器製造部門が開設されて以来、 その製造の一部を請け負うようになっていた。 騎士団が公開講座を開講して以来、街には自然、その方面を中心とした職人たちが集まるようになった。 その流れから、彼の元へと弟子入りする者も増え、今ではなかなかに大きな工房を取り仕切っていた。 口数の少ない職人肌の人物ではあるが、その面倒見の良さと確かな腕から、ギルド内でも信用が厚く、 浅からぬ菊との縁もあり、ドイツ騎士団との橋渡し的な役割も担うようになっている。 今日彼は、打ち合わせの為に本部へと足を運んでいた。どうやらそこで、話を聞いたのであろう。 自分の口から告げようと菊は今日ここに来たのだが、どうもタイミングが悪かったようだ。 細めた片目で、作りかけの忍び道具の刃先を確かめながら。 「私には、荷が重過ぎます」 所詮は付焼き刃の知識です。私は職人でも無ければ、専門家でもありません。 これ以上の開発に、中途半端な知識で関わるのは危険でしょうし、 専門とされている皆さんに対しても失礼に当たります。 きっぱりと告げるその言葉に、迷いは見られない。 恐らく彼女は、最初からそのつもりで携わっていたのだ。 ハンガリーからの帰還後間も無く、菊は武器製造部門の管轄の離任を申し出た。 先の戦いで大型武器に対する重要性を認識し、騎士団としての固執した考えを改め、 力を入れようとしていた矢先の事だ。 総長をはじめ、同部門の関係者達は皆一様に驚いた。 研究と製造に関する予算の引き上げを決定し、 その責任者の一人として彼女が推挙されていただけに尚更である。 説得しようとする彼らを前に。 「無知をさらけ出して恥をかく前に、どうかここで身を引かせて下さい」 ここから先の武器開発には、更に専門的な知識が必要になります。研究を担う人材も育ってきました。 この部門は矢張り、その道に精通した職人や、専門家に任せるが良策かと思われます。 そう言われれば、周囲も承知せざるを得なかった。 もとより菊は、一戦闘兵として騎士団に入団した身だ。 武器職人でも無く、学士でも無く、またそちらの分野を目指している訳でも無い。 「寧ろ、一介の兵士が出過ぎた真似をしたと、恐縮しております」 ここまでの成果は、周囲の助けと理解があってこそのものであり、私はあくまで切欠を作ったに過ぎません。 部門として力を入れるなら尚の事、きちんとした知識と教養を持つ、 官職を任せるに相応しい人材に引き継ぐべきでしょう。 それが、「今後のドイツ騎士団」の為にもなるかと思われます。 あくまでも己が立場を弁えた、謙虚な、しかし頑なな彼女の主張は、確かに正論であった。 ドイツ騎士団内において、菊はあくまでも「特例」であり、「イレギュラー」な存在だ。 それがまかり通ったのは、偏に彼女の生い立ちや、ドイツ騎士団との関係、兵士としての実力等に加え、 ドイツ騎士団と言う団体のアットホームな小規模さからくるものも否めないだろう。 先日、ドイツ騎士団はドブリン騎士団を吸収合併した。 十字軍運動が久しく途絶え、修道院騎士団の存在価値は急速に衰えつつある。 聖地奪還に信仰心を燃やす信者が減り、入団希望者の足は遠のき、 あまたに存在した修道院騎士団は、いまや減少の一途を辿っていた。 やがては消滅するであろう現状の中、吸収合併は騎士団が存在し続ける手段の一つだ。 常に人員の確保に苦心するドイツ騎士団にとって、ドブリン騎士団との合併は喜ばしい事であろう。 しかし人員が増え、規模が大きくなると、今までは無かった問題も浮上してくる。 その一つが、菊の存在だ。 正規の団員では無いとは言え、腕が立つとは言え、あくまでも彼女は「女」だ。 世俗騎士団なら兎も角、聖なる神に従事する修道院騎士団において、 女性の騎士団員など通常は認められるものではない。 寧ろ異性だけに、無闇に団員の煩悩を刺激する、厄介な存在とさえ成りかねない。 新たに加わったドブリン騎士団のメンバーの中には、表立って口にはしないものの、 矢張り菊の存在を疑問視する者も少なくは無かった。 騎士団の吸収合併は、この先も予想される。 現に今も、ローマ教皇からの提案で、リヴォニア帯剣騎士団との合併話が持ち上がっていた。 実現すれば、ドイツ騎士団は更に大きな団体となる。 そうなれば、今は敢えて触れられていないが、恐らく今後、何らかの形で問題視される時が必ず来る。 それを懸念した菊が自ら身を引いたであろう事は、誰しも容易に想像出来た。 「私は、一兵士でありたいんです」 これは本心だ。 武器製造に関しての興味は確かにあるが、このまま今の部門に身を置くと、 戦闘要員としての立場を失ってしまう。 クマン族との戦いで思い知ったが、それはつまり、 いざという時にドイツ騎士団を守れる位置に身を置く事が出来ないと言う事だ。 菊としては、それは避けたい。 この判断は、騎士団の為にも、自分の為にも、恐らく最良なのだ。 「でも、ここには今までと同じように、来ても良いですか?」 むっつりとしたままの親方に、伺うように菊は小首を傾ける。 菊は良く気が付く。そして、過剰なまでに自分の身を弁え、周りに配慮し、場の空気を読む。 ここ最近、騎士団に入団した当初に比べてこの工房に足を運ぶようになったのは、 自分の道具を作る為だけでは無かろう。 「当然だ」 現在彼の工房は、その規模や従業員に合わせて、別の広い場所へと移転している。 しかしここだけは、あの頃と変わらず、そっくりそのまま残していた。 ぶっきらぼうなそれに、菊はほっと笑み零れる。ありがとうございます。 心からの感謝の声に、軽く竦めた肩が返された。 ふと、工房の扉がノックされる。 親方と菊は目を見合わせた。珍しい。ここは私的な工房だけに、彼の弟子でさえ滅多に寄りつかない。 親方が返事をすると、かちゃりと扉が開いた。 ひょっこりと顔を見せるのは、未だ慣れないドイツ騎士団の衣装を纏った、年若い少年騎士団員だ。 菊の姿を確認すると、人好きする笑顔が零れる。 「やっぱり、こちらにいたんですね」 彼は、先日新しくドイツ騎士団に入団した新人だ。 紅色の頬もまだ幼いこの少年は、クマン族との戦いの際に菊が助けた、プレツェンラントの子供である。 ペスト対応で街に残った菊達を手伝った幼子は、彼らの活動を目の当たりにし、 献身的な働きに感銘し、騎士団への憧れを深め、先頃漸く入団を果たしていた。 その経緯から、新しく吸収した元ゴブリン騎士団のメンバーに比べると、古参の団員と親しい。 隠れ家のようなこの場所を知る、数少ない騎士団員の一人であった。 「どうかしましたか?」 騎士団員となれば、恐らく御用向きは自分にあるだろう。 そう察して、立ち上がった所で。 「キクーっ」 少年兵を押し退けるようにして飛び込んできた姿に、菊はぱちくりと目を丸くした。 避ける間もなく広げた両腕にホールドされ、思わず身を固くする。 ぐりぐりと肩口に擦りつけてくる頭に、瞬きを繰り返し。 「ポーランドさん?」 「そうだしー、俺だしー。キク、久しぶりーっ」 碧の瞳が間近から菊を映し、掬うように両手を取ると、きゃっきゃとはしゃぎ声を上げた。 すっごく会いたかったんよ。なあなあ、まだドイツ騎士団にいるん? うちはいつでもキクが来るのを待っているんよ。 もー、こんな所にいるの、絶対キクには勿体無いと思うしー。 「おいこら、てめえ」 こんな所ってどういう意味だよ。その後ろ、腹立たしげに顔を顰めて入って来たのは、ドイツ騎士団だ。 「そのまんまの意味だし」 お前、チビの癖に生意気で、野蛮で、乱暴なんよ。 大体さー、どんな信仰をしようが、こっちの好きにさせて欲しいし。 つーんとそっぽを向くポーランドに、ドイツ騎士団はおいと凄む。 お前が頼むから、ここまで連れて来てやったんだろうが。誰のお陰だと思っているんだ。 そんな二人のやりとりに苦笑し、そして改めて姿勢を正すと、菊はポーランドとドイツ騎士団に向き直った。 「わざわざこちらまでいらっしゃるなんて、何かありましたか」 穏やかに笑顔を向ける菊に、そうそうとポーランドは唇を尖らせて頷く。 そして、菊の手を取る力をそっと込めて。 「なあなあ、キク。ヤーヤを助けて欲しいし」 ポーランド王国の王族の血を持つヤドヴィガは、幼いながらも既に王位を継ぎ、婚姻を果たしていた。 相手は、隣国であるリトアニアの王である。まだ幼い彼女とは、親子ほどに歳の離れた相手だ。 この時代の王家の婚姻は政治的な意味が強く、勿論ヤドヴィガとてその例外ではない。 彼女の結婚は、周辺国への牽制、更にはリトアニア・ポーランド両国の関係強化が目的である。 聡明なヤドヴィガは、正しくそれを理解していた。 彼女の夫であるリトアニア王ヨガイラは、その英知もさながら、柔軟な思考の持ち主としても知られていた。 まだ子供と称しても差し支えのないヤドヴィガを、敬意を持って迎え入れ、 ポーランドの王位継承者として、また妻として、とても大切にしているらしい。 政治的色彩の強い婚姻では有れど、二人の夫婦仲はおおむね良好であった。 ただ、ひとつ問題が浮上した。ヤドヴィガの不実疑惑である。 彼女にとっては寝耳に水の話だ。 ポーランドとリトアニアは両国とも、貴族を中心とした現王権への反対勢力を抱えている。 そんな彼らのでっち上げであろうと、最初は相手にしていなかった。 しかし、この噂には根拠がある。 ドイツ騎士団に護衛を任せ、身を隠してハンガリーにまで昔の婚約者に会いに行った、 あの依頼の件が出所になっていたのだ。 無論、濡れ衣だ。何せあの時、ドイツ騎士団は彼女の依頼を果たせなかった。 明朝までにハンガリーへと護送する予定が、暴漢に襲われて馬車を失い、 結局彼女を元婚約者に会わせる事が叶わなかったという、不本意な形で終わっている。 「ヤーヤ、悲しんでいるし」 ポーランドは唇を尖らせて、頬を膨らませた。 ヤドヴィガは、例え政治的な婚姻とは言え、夫たるリトアニア王を心から慕い、そして尊敬している。 貞淑な彼女にとって、彼からの疑いは何よりも辛い筈だ。 大体、あれは不義と言われるようなものではない。 淡い初恋の相手を最後に一目見たいという、少女らしいささやかな乙女心である。 「俺、責任感じてるし」 本来ならば、ポーランドは彼女を止める立場にあった。 当時、ポーランド国内において、ヤドヴィガの元婚約者は警戒の対象となっていた。 オーストリア公の彼に、ポーランドを共同統治する二重帝国とする腹心があったのは、周知のものである。 しかし、幼かったヤドヴィガはそれを知らなかった。 彼が彼女に見せたのは、知的で、洗練されていて、そしてとても優しい側面のみである。 そこに下心が隠されていたとしても、家族を失ったばかりの幼い彼女にとっては、 確かに支えであり、慰めであり、力とも成り得ていたのだ。 せめて、彼女の気が済めば…そう思っての行動であったが、まさかこんな形で裏目に出るとは思わなかった。 ポーランドの内政は、一見する程安定はしていない。 特に前国王が後継者を残さず急死し、ハンガリー貴族の婚約者がいるヤドヴィガの姉が王位を継いだ後は、 反発した地方貴族の反発が強く、大きな反乱が起こった。 ヤドヴィガが国王として座するのは、彼女の血脈や、能力や、人望等では無い。 ハンガリーの同君連合に反発した勢力が、まだ幼いヤドヴィガを矢面に祭り上げたに過ぎなかった。 ヤドヴィガのポーランド国王としての立場は、彼女の意志はなく、確固たる礎さえなく、 何時どの勢力によって覆されるかさえ分からない、何処までも不安定なものでしかない。 家族を失い、姉妹で対立をし、国王へと祭り上げられて。 幼い姫君はまだ短い生涯にも関わらず、既に過酷とも呼べる運命に翻弄されていた。 しかし彼女は健気にも、それら全てを甘んじて受け入れ、 祖国ポーランドの為に己が生涯を捧げる覚悟をしている。 そしてこの後、彼女には更に辛い未来が待ち受けているのだ。 「お願いするし。キク、ヤーヤを助けて欲しいんよ」 切実にこちらを伺うポーランドに、菊は眉根を寄せる。 その翡翠の瞳の向こうには、幼い姫君の大きく、聡明で、つぶらな瞳が透けて見えた。 開いた扉の向こう。正面の窓から差し込む陽光を背後に立つその姿に、日本は瞠目した。 どっしりと安定感のあるデスクの前、待ち構えていた彼は、 やや斜めに被った軍帽のつばの下の目を細め、にやりと不遜に口の端を吊り上げる。 「来たな」 漸くここまで辿り着いたか。 待ってたぜ、馬鹿弟子。 「まさか、師匠がいらっしゃるとは…」 「あいつは別件で出ているからな」 民族統一を果たした帝国が確立し、表舞台にドイツが活躍するようになると、 自然プロイセンは彼の補助的な役割を果たす事が多くなっていた。 それだけに、彼の登場は日本にとって意外であったのだ。 「お前をないがしろにしている訳じゃねえから、安心しろ」 何せ、あいつも忙しくてな。お前にはすっげえ会いたがっていたんだぜ。 その言葉に、ふっ、と日本の目元が柔らかく緩む。 開国して間も無く、ドイツ留学の最中に紹介された幼子姿の新興国は、今はまあ随分と大きくなっていた。 顔を合わす度に視線の角度が変わる成長ぶりの目覚ましさは、いっそ惚れ惚れする程である。 「ドイツさんは凄いですね」 「当たり前だ、俺様の弟だぜ」 膝をついておぼこ顔を覗いていたあの頃から、どれほどの年月が費やされたと言うのか。 思い出が懐かしく、そして何故だろう、喪失感にも似た感傷が、不意に胸の奥を過ぎる。 「書けたぞ」 サインと調印を済ませた書類を軽く掲げ、プロイセンは立ち上がった。 慌てて日本も立ち上がり、二人は机を回り込むと、真正面に対峙する。 身長差の為、プロイセンは日本を見下ろし、日本はプロイセンを見上げる姿勢になった。 「ほらよ」 交差する、二つの書類。 互いのサインが記され、互いの調印がされた、互いの書類。 同時に手渡し、同時に受け取ると、同時に内容を確認し、そしてそっと同時に視線を交わし合う。 にいっとプロイセンは笑った。 「これで、俺達とお前は対等だな」 「はい」 今回の訪独は、今まで結んでいた不平等条約の改正の為であった。 開国したばかりの日本は、その無知のまま、翻弄されるまま、 それぞれの国に押し切られるような形で条約を交わしていた。 それが日本にとって理不尽なものと知るのは、間も無くの事。 以来、世界を知り、世界を学び、それらの条約の改正に日本は奔走を続けていたのだ。 遅々として進まなかったこの改正案が、しかしここにきて一気に進展を見せた。 切っ掛けは、対ロシア戦争である。 まずは、同盟国であるイギリスが軟化を見せた。 そして日露戦争の勝利を皮切りに、徐々に各国が、日本の改正案を受け入れ始めたのである。 何せ、あの大国ロシアに勝利した国だ。 世界が驚愕した大事件は、その最末端とはいえ、大国への仲間入りに足る充分な要素とみなされた。 日本は、世界に認められたのだ。 とうとうここまで来れた。ここまでの道の、何と遠き事よ。 日本は手元にある書類を挟んだファイルを、感慨深く見下ろした。 「頑張ったな」 によによと笑うプロイセンに、日本ははにかむように口元を綻ばせる。 「はい」 可憐な…とでも称するようなそれに、思わずプロイセンは苦笑した。 こんなちっこい奴が、こんな弱っちろそうな奴が、こんな笑顔を見せる奴が、 よくもまあこの短期間でここまで昇り詰めたものだ。全く。 この俺様が教えただけあるとはいえ、末恐ろしい奴だぜ。 だが、柔らかく見守る赤い目が、すう、と細まった。変わる空気を悟り、師匠?日本は瞬く。 「…お前、気をつけろよ」 静かな声に、日本は首を傾けた。正面から見据える深紅の瞳は、酷く真剣みを帯びている。 「気をつけろ…とは?」 心底不思議な顔に小さく息をつく。ああ、やはりこいつは、まだ判っていない。 「あの、ロシアに勝った事だよ」 あれは、見えるままの戦争では無い。 表面上こそは、二国間での戦いであった。 しかしその裏側では、傍観の姿勢を見せていた列強が、それぞれの背中を後押しした戦争である。 ロシアの力は強大であった。その強大さ故に、欧米国の力関係は、長らく微妙なバランスが保たれていた。 それを、この表舞台に出たばかりの小国が、あっさりと崩してしまったのだ。 今後、各国の日本に対する認識は、良し悪し含め、その思惑によってがらりと変わって来るだろう。 そして、ぎりぎりのバランスが崩壊した今、新たな相関図が水面下で構築されつつある。 押し殺していた問題が浮上し、燻っていた火種が表面化し、 更に複雑な渦を作りながらじわりじわりと波紋を広げていた。 日本とロシアの戦争は、そしてそれに日本が勝利したと言う事は、 当事者達が想像している以上に、大きな意味のあるものであった。 そして、それだけでは無い。 言葉を選ぶのは苦手だ。まだるっこしい言い回しも性に合わない。いいか、誤解すんなよ。断りに念を押して。 「初めてなんだよ」 この戦争は近代史上において、初めての快挙であり、悪夢であり、転換地点であり、分岐点である。 それに、当の本人ばかりが気付いていない。 「有色人種が、白人種に勝つなんてな」 厳しい瞳に、どきりとした。 その地理上の条件も手伝い、日本は常に、他国との交流にいくつものクッションを置いていた。 人種がどういう意味を持つものか、肌の色がどれだけの違いを生むのか。 単一民族の国家である日本は、それを実感として知る事が無く、また知る必要もなかった。 世界は未だ、「白人の物」なのである。 それを日本が真の意味で理解するのは、これからなのだ。 日露と言う名の世界大戦とも言われているそうです 2012.01.19 |