ANGELIC TONE <1> 目が覚めると、へんな部屋にいた。 いつもの見慣れた部屋ではない。妙に可愛らしく飾られた女の子らしいインテリアの部屋。 大き目のベットと、机。部屋の真ん中には花を活けた花瓶が飾られてあり、 部屋の置くにあるチェストの上には、何やら置物だとか、珍しい石だとかが並べられていた。 しばし考え、はたと顔を上げる。 「そうか、これは夢なのだな」 ぽん、と手を打って納得した。納得することにした。 そしてそのままベットの中に 潜りこみ、再び惰眠を貪ろうとしたとき。 ピンポーン ふいにチャイムの音がした。 一体誰じゃろう。わしは眠いのだ。 そのまま居留守を決め込もうとするのだが。 「太公望!遅いり☆」 ばたんと元気良く開けられてしまう。 ひょっこり顔を出すのは幼い顔をした子供。 「…おぬし、貴媚…」 「早くするりっ。今日は女王さまに呼ばれてる日だよっ☆」 ばたばたと布団の上から、丸まった体を叩いて起こす。 「はあ」 間の抜けた声を上げる太公望に、貴媚はきっと睨みすえる。 「いい?貴媚は絶対太公望には負けないっ☆」 びしっと指を突きつけて、高らかに宣言する。 「太公望と勝負して、勝って、貴媚はスープーちゃんと結婚するりっ☆」 「…はあ?」 「その為にも、この女王試験には絶対負けないっ☆」 そうか。わしは女王候補に選ばれて、昨日、ここ聖地にやってきたのだった。 「あはん、太公望ちゃんたら、おっそーい」 貴媚に連れられた宮殿にはこの宇宙の女王だっきと、その補佐官貴人が正面奥で待っていた。 「姉様っ!!こんな奴、さっさと女王試験落第にしてしまいましょう」 「やっだー、貴人ちゃんったら厳しいわん」 フェロモン全開に色気を振りまく彼女こそ、この宇宙を統べる女王陛下、だっきだ。 ちょっと恐ろしい事実かもしれないが。 「そうねん。せっかくだから、説明してあげるわん…貴人ちゃん、お願いん」 「ええ、姉様っ!!」 つまり太公望と貴媚は、この宇宙を統べる次代の女王にふさわしい素質を持っているらしい。 これから行われる女王試験を受けてもらい、優秀な方が女王の座を次ぐ事となる。 「女王試験?」 「そうよん」 「二人には、これから各自霊獣を育ててもらいますっ!!」 「霊獣?」 ぱちんとだっきは指を鳴らした。 奥から数人の付き添いに連れてこられたのは、一体の霊獣。 「ご主人…」 一匹はふよふよと空を飛ぶ、かばに似た白いその姿は。 「…おぬし、スープーではないか」 このかば似の霊獣は、太公望がこの聖地に来るまで一緒に暮らしていた、 家族のような存在だった。 今回この聖地に連れてこられて、泣く泣く別れを惜しんだ相手が、 なぜこんなところにいるのだろう。 だが、感動の再会をすべく、スローモーションで 歩み寄ろうとする太公望を押しのけてスープーシャンに抱きついたのは、同じく 女王候補の貴媚である。 「スープーちゃーん☆」 「ぐえっ」 「ぬおっ」 太公望を突き飛ばし、 体当たりのように思いっきり抱きつくと、 ちゅっちゅとスープーシャンの顔中にキスをする。 「うう…何だかよくわからない事になってるっスよ〜」 「しかし、空飛ぶ白いカバだとばかり思っておったが…おぬし、 霊獣だったのだな」 「僕も知らなかったッス〜」 涙目になりながら、首を締め付けるように抱きつかれるスープーに、ふうと息をつく。 「…で、だっきよ。もう一匹の霊獣はどこだ?」 「あはん、太公望ちゃん。ここでは女王陛下ってよんでーん」 言いながら、ぱちんと指を鳴らす。 「いらっしゃーいん、王天君ちゃーん」 奥から姿を現したのは、 不健康そうな顔をした小柄な少年だった。シルバーアクセサリーが、じゃらじゃらと 音を立てる。 「…って、おぬしは霊獣か?」 どう見ても、自分と大差の無い 人間の子供に見えるのだが。 「けっ、ダセッ。しょーがねえから、俺も付き合ってやってんだよ」 「あはん、ママも坊やの成長を待ってるわん」 「これから、各自与えられた霊獣を育ててもらうのだけど、 霊獣はこの聖地に住む守護聖から力を与えてもらわなくてはいけないのよっ!」 「守護聖?」 「二人ともがんばってねえん」 一日に限られた力をうまく配分して、守護聖にお願いして霊獣に力を与えてもらう。 すると霊獣はその力を糧に、成長するらしい。 「ふむ。一日に使える力が限られているとは、いろいろと面倒だのう」 「まあ、いろいろとオプションもあるけれど、それは追い追いわかるでしょうっ!」 何やら含みのある言い方が気になったが。 「…ま、いっか。要はわしが王天君を成長させればよいのであろう」 何だか大変そうだがのう。 「バーカ。ちげえよ」 ポケットに両手を突っ込んだまま、つかつかと王天君は、 じゃれあうスープーシャンと貴媚の方へと向かった。 「おれはこっちのお嬢さんに育ててもらうんだよ」 「えーっ」 ぐい、と腕を引っ張られて、貴媚は不服そうに声を上げた。 「で、てめえはあっち」 どんっとスープーシャンは太公望の方へと押しやられる。 ふよふよと寄ってきたスープーシャンに、太公望は少し安心する。 「なんだ。わしはおぬしを育てればよいのか」 「そうっス。よろしくお願いするッス〜」 「うむ、よろしく頼むぞ」 あの性悪そうな王天君に比べるとスープーシャンは、 付き合いも長く、気心も知れている 根の素直なスープーシャンの方が育てやすそうだ。 「貴媚、スープーちゃんの方がいいっ」 「ちっ。我侭言うなよ、もう決まってる事なんだから」 「ぶーぶー☆」 「俺の方がいいぞー。この聖地のことをよく知ってるからな」 にやりと笑って口を寄せる。 「あの間抜けなカバと違って、ここにゃ長いからな。 女王試験攻略の裏技、教えてやれるぜ」 「ほんとにっ?」 ぱあっと貴媚は顔色を輝かせる。 「…王天君、やっぱりわしと組まんか」 「ええっ、ご主人!?」 かくして、女王試験は始まってしまった。 やっちゃったよ…しかも、何だか楽しいし。 2001.11.30 |