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そのコントラスト

6月のお題、「ジュース」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



瑞々しいグレープフルーツが手に入った。
果物ナイフで半分にカットすると、鮮やかなルビー色にふと笑う。
スクイザーで絞ると、百パーセント生ジュースの出来上がり。
爽やかな甘酸っぱい柑橘系の香りが辺りを取り囲み、
ふわりとカーテンを煽る風に目を細めた。
ああ、もうこんな季節か。
窓の外、新緑が溢れ、鳥の声が響き、生命の息吹を肌で感じる。

透明のグラスに、爽やかな果汁を流し込む。
グラスに半分ほどの量は、少々多いかもしれない。
それを片手に、隣の部屋の扉を開いた。

「チチ、ほら、ジュースを作ったぞ」

白いシーツが眩しいベットの上。
ぴくりとも反応しない、染みが浮かび、皺が寄り、骨のように痩せた手。
もう殆ど力の入らないそれに、搾りたてのジュースをそっと握らせた。

外は生命力に満ち溢れ、眩しい。
夏はもうすぐだ。



人はこうして、終焉を迎える

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