記事一覧

暮れの御挨拶を

12月のお題「シチュー」「ドーナツ」「ワイン」

「ワイン」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、封神・楊太です。



最後のお客様を笑顔で見送って。
扉に下げていたプレートをくるりと返してクローズを示し。
ふうと息をついて、ネクタイを緩めた。

「お客様、帰られましたよ」
「おう、ご苦労さま」

厨房に入ると、既に殆どの片付けを終えていた。
残っているのはチーフが一人。
後は全員自分の持ち場を終えた者から帰らせた。

「長い客だったのう」
「なかなか込み入ったプロポーズのようでしたから」
「ほう。で、結果は」
「笑顔でお帰りになりました」
「それは良かった」

そのお陰で、こんな時間まで、店を開ける羽目になったがのう。
小さな予約限定のレストラン。
クラシックな柱時計は、間もなく日付を変えそうだ。

「今年はここで年越しですね」
「ま、そんな年も、たまには良かろう」

ほらと差し出されたのは、白ワインが注がれたグラス。
受け取ると、同じくグラスを掲げる彼に、くすりと笑みが零れる。

お疲れさま、今年もお世話になりました、来年もよろしく。

お決まりの台詞を告げ合うと、二人で肩を竦めてグラスを重ねる。
かちんと透き通った音に、遠くで除夜の鐘も重なった。



一年があまりに早過ぎて、呆然としております。
今年も相変わらずいろいろ外したサイトではありましたが、
来年もこんな調子で運営する予定で御座います。
皆様、良いお年を。

手作りマフラー

12月のお題「シチュー」「ドーナツ」「ワイン」

「ドーナッツ」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、DB・悟チチです。



放課後のドーナツショップ。
奥まった席に二人、向かい合わせに腰を下ろす。
ここなら人目がつきにくい。
コーヒーとドーナツひとつで、長居しやすいだろう。

開いた教科書と問題集。定期テストまでは後少し。

「おめえ、なんか顔色悪くねえ?」
「そ、そうだか?」

テストに手は抜けない。
プレゼントにも手を抜けない。
間に合わせるには、睡眠時間が犠牲となるしかない。

定期テストまでは後少し。
クリスマスまでも後少し。

膨らんだ鞄の中からノートを取り出す。
その拍子にはみ出しそうになったのは、男物の色をした毛糸と編み棒。
ノートにペンを走らせる目の前の彼は、それに全く気付かない。
内心の動揺を無表情で押し隠し、こっそり奥へと押し込んだ。



ポメラのデータから発見。すっかり忘れておりました。
二年越しのお題更新ですな。

ずっと僕と一緒に

12月のお題「シチュー」「ドーナツ」「ワイン」

「シチュー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、APH・露日です。



煌々と焚かれた暖炉、柔らかいベッド、心地よい毛布。
寒さから隔絶された小さな部屋。
温もりが閉じ込められた小屋は、ぬるま湯のように暖かい。
扉ひとつ向こうの、吐息まで凍らせる極寒の雪野原とは、天地の違いだ。

「さあ、召し上がれ」

大柄に似合わないような木訥とした瞳で、彼はにこりと笑った。
差し出されたのは、温かいシチュー。
木の器に盛られたそれを両手で取ると、急激に体が空腹を訴える。

これを食べると、もうここから出られなくなるかもしれない。
黄泉の国の食べ物を口にした者が、地上へ帰れないお伽噺と同じく。

掌から伝わる器の温もりは、何か大切な事を麻痺させてしまう。
酷く残酷な笑顔に見守られ、今私は考えあぐねている。



スキーでお昼休憩した後、外に出るのが嫌になるあの感じですな。

ミントが好きです

11月のお題、「紅茶」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、APH・英日です。



ファッションモールの一角にあるごく小さな店舗。
高めのスツールに腰を下ろし、記入したアンケート用紙を手渡す。
彼はそれを受け取ると、翡翠色の瞳を瞬きさせ、ペンで何やら記入した。

最近人気のあるらしいこの店は、同じ職場の女性同僚にお勧めされた。
病気と言うほどでもないが、何となく体調が優れない人向けに、
個々の体質に合わせて処方してくれる、ハーブティーの店らしい。
調合するのは、本場の国からやって来た専門家。
彫りの深い整った横顔に、成程女性層の人気が出る訳だと納得した。

目の前に置かれたのは、綺麗な透明のカップ。
貧血、滋養、冷え症、その他の効用の詰まったハーブティーからは、
暖かな湯気と共に、独特の香りがゆらりと立ち上る。
じいっと向けられる酷く真剣な翡翠の瞳を受け止めながら、
飲み慣れないそれに、恐る恐ると口を付けた。

「…あ、美味しいです」

予想以上に飲みやすい口当たり。
思わず零れた一言に、彼は酷くほっとしたように微笑んだ。
この笑顔を見る為にまた来たくなるような、そんな笑顔だった。



ハーブティーの本場って何処だ?

謝るのもお仕事

「マカロン」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、DB・カカチチです。



「この度は、誠に申し訳ございませんでしたっ」

深々と頭を下げに来た担当責任者は、初めて見る顔だった。
大きな瞳に、一つに束ねた艶やかな黒髪が印象的な、小柄な女。
担当が変わったばかりらしいが、最初の仕事がこれじゃ気の毒な話だ。
今回のミスだって、おそらく彼女は何も知らなかっただろうに。
まあ、事前に気付くことが出来たし、大事には至らなかった。
次から気をつけて貰えれば、とりあえずこちらとして構わない。
ただ、一応仕事上の責任として、形ばかりの厳重注意は伝えた。

泣き出しそうに歪められた大きな瞳。
心底申し訳なさそうに寄せられた眉根。
ひたむきに引き締められた丸みのある唇。

思い出し、小さく吹き出す。
真面目そうな奴だったな、妙な所で馬鹿正直だったし。
世間ずれしていない所は初々しいが、あんな調子でこれから大丈夫か?
あいつ、なんて名前だったっけ。
お詫びの品にと持ち込まれたマカロンを齧り、彼女の残した名刺を手に取った。



業者さんと営業さんかな?
自分で書いててアレだけど、お詫びにマカロンってのは無いと思う。

ラーメンたべたい

11月のお題「ラーメン」「マカロン」「紅茶」

「ラーメン」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、封神・楊太です。



残業が終わり、良い店を見つけたんですよと誘われ、二人で飲みに行った。
程々に酔った所で、小腹が減ったと言ったら、ラーメン食べますかと誘われた。
そのまま線路の高架下にある屋台に並んで座り、二人でラーメンを啜った。

ここ連日、こんな調子だのう。
仕方ないですよ、時期的にそうなんですから。
なーんか、疲れた。癒しが欲しいのう。
癒しって、例えば?
こう、可愛くて優しい恋人に、笑顔でにこっと…。
こんな風にですか?

にこりと向けられた笑顔は、確かに可愛くて優しかった。
思わず大笑いしてしまうと、奴はちょっと拗ねたようにじろりと睨む。

もう、本気なのに。
おぬし、面白い奴だのう。
本気なんですよ…僕は。

その声が含む真摯な響きに目を丸くすると、奴は唇を噛締めて俯いていた。
ちゅるりと麺を啜り、飲み込む。

本気なんです、本当に。
のう。
はい。
なんで、それをさっきの店で言わなかったのだ。

静かで感じの良いさっきの店でなら、雰囲気もばっちりだろうに。
それがなんで、こんな小汚い屋台のラーメン屋なのだろうか。

言おうと思ってたんですよ、そのつもりで誘ったんです。でも…。

消え入りそうな声で語る真相は、高架上を走る電車の音にかき消されてしまった。



真夜中に食べるラーメンって、美味しいんですよね。

凶悪なる追跡劇

10月のお題、「中国茶」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、楊太です。



「これは…不意をつかれましたね」

衝撃に利き手が痺れる。弾き飛ばされた銃が、音を立てて転がった。
足元には、無残に散乱した飲茶と食器と、うつ伏せに倒れたボスの死体。
そして目の前には、硝煙の香りの強い、黒光りした銃口。
ぴたりと眉間に標準を当てて、油断を許さない位置で彼は目を細める。
テーブルを汚す香り高い花茶が、ぱたりぱたりと床に滴を落としていた。

「安心せい、おぬしは殺さぬ。わしの受けた依頼はこやつだけだ」
「…ここから逃げられるとお思いですか?」

騒ぎを聞きつけた部下が、店を囲むのも時間の問題だろう。
この地域を取り仕切るチャイニーズマフィアの包囲網は伊達じゃない。
しかし、算段があるのか、幼い顔立ちの彼には余裕がある。
テーブルの上に乗っている、未だ無事な茶碗を取ると、一気に飲み干した。
ぺろりと舌舐めずりすると、にいと不敵に笑う。

「ならば、わしを捕まえてみよ」

成程、これが彼流の宣戦布告らしい。

「ええ…必ず、貴方を捕まえて見せましょう」

好戦的に笑み返す。
さあ、追跡劇が始まった。



用心棒と殺し屋。続きが読みたいです。

どこにいるのかな

10月のお題、「パイ」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、ヘタリア加日です。



トリックオアトリート。
ぼくはおばけなんです。
とうめいにんげんなんです。
きょうだけは、だれのめにも、うつらないんです。

おや、それは大変ですね、困りました。
どうやら私には何も見えないみたいです。
先程、誰か来るかもと思ってパンプキンパイを焼いたのですが、
どうしましょう、余ってしまいましたね、困りました。
まあ、どうぞおあがり下さい。あ、靴は脱いで下さいね。
ほらこっち、こちらですよ、ね、準備しているでしょう?
今日のは美味しく焼き上がったんですよ、ああ、珈琲淹れましょうか。
美味しいですか、良かった。今日は時別に腕を奮ったんですよ。
…おや、誰もいないのに、パイが無くなってしまいました。
どなたに食べられてしまったのでしょかね、びっくりしてしまいました。

…ああ、透明人間さん、ほら、ほっぺに食べかすが付いていますよ。



カナダさんを見ていると、時々切なくなります。

秋の味覚の代表

10月のお題「炊き込みご飯」「パイ」「中国茶」

「炊き込みご飯」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



「これ、食べるだか?」

窓越しに差し出されたそれに、首を傾げる。
放課後、部室へと向かう最中、体育館へと続く校舎の裏手。
廊下の窓身を乗り出して、こちらを見下ろすクラスメート。
差し出された手には、手の平大のアルミの包みが二つ。

「何だこれ」
「栗の炊き込みご飯だべ」

調理部の実習で作ったおむすびだべ。
沢山作って余ったから、おめえにやるだよ。

「おっ、サンキュー」

ラッキー、と手を伸ばすと、見計らってひょいと距離を取られた。
但し…そう言って、きりりと眉を潜めて。

「オラから以外は、絶対受けとらねえって約束してけろ」
「何で?」
「何ででもだべ」

約束してくれたら、これをおめえにあげるだよ。
どうする?挑むような視線に瞬きし、まあ良いかと頷く。

「判った、おめえ以外から貰わなけりゃ良いんだろ」

約束する。そう言うと、彼女は満面の笑顔で、おむすびを差し出す。
受け取ったそれに、早速かぶりつく様子に、彼女はにこにこ笑う。
うめえだか、おう、そっか良かっただー。
頬杖をついて見下ろす彼女の視線が、やけにくすぐったい。
それを誤魔化す様に、親指についた米粒を、ぺろりと舐めた。



朝起きて、部屋の窓を開けたら、金木犀の匂いがしました。
金木犀前線通過中。

コーヒーアート

9月のお題、「コーヒー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、ヘタリアです。



無表情?何考えているか判らない?誰だよ、そんな事を言った奴は。
好奇心と憧憬を浮かべた瞳は、雄弁できらきらしていた。
真っ赤にしたほっぺたは、興奮と感動を隠し切れていなかった。

街並みや、風景や、当たり前の景色が、そのまま芸術のよう。
本当にここは素晴らしいですね。何もかもが最高です。
憧れていました、ずっとこうして眺めていたいですね。
ああ、有難うございます、とっても良い香りです。
嬉しいです。一度、本場のものを飲んでみたかったんですよ。

ふわりとカップに注ぐカプチーノ。
軽く手首を返して、泡が世界共通の、この世で一番優しい形を描く。
想いを示した形を見た時、さて彼はどんな反応を見せるだろうか。




ロマ日。ハートのラテアートでどうぞ。
日本人バリスタが、コンテストで優勝した事ありましたよね?

ページ移動