記事一覧

NYチーズケーキ

5月のお題、「チ-ズケーキ」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、カカチチです。



「言い訳は結構ですだ」

カップを置いて、彼女はきりっと釣り上げた目を向けた。
眠たいのは時差の所為。飛行機で到着し、その足での打ち合わせだ。
どうしようもなく漏れるあくびに、彼女は眉を顰めた。

「最初に提示していた条件と、全然違うでねえか」

唇からこぼれるのは、覚束無さの残る、彼女にとっては異国の言葉。
覚えたての外国語に慣れていないのだろう、微妙な訛りが残っている。
どこにも隙を見せない彼女にとって、最も判りやすい可愛げだ。

「これじゃ、来季の契約は無理ですだ」

溜息をついた所で、ウェイターがテーブルに最後の注文を乗せた。
こちらに了承を得て、小腹を落ち着かせる為に注文したのはチーズケーキ。
昼食もとらずここにやって来たらしい。一瞬の躊躇に、軽く手で促す。

「どうぞ」
「あ…すいません。じゃあ、失礼しますだ」

律儀に軽く一礼しながら、優雅な指先で閉じたファイルを隣に置く。
グロスに濡れた唇が開き、ひと欠片、チーズケーキを含み、咀嚼する。
頬杖をついて眺めながら、さて、どうやって彼女を口説こうかと算段した。



さらっと書きました。さらっと読んで下さい。

コメント一覧