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旬の竹と書いて

一カ月遅れですが、5月のお題「鈴蘭」「筍」「向かい風」です。
ちょいと試しで書いてみました。

ジャンル違い、要注意。
以下、楊太小噺です。



「良いか。筍は、足の裏で探すのだ」
土の上に頭を覗かせているのは、もう固くなってしまっておる。柔らかくて食べ頃なのは、まだ地中に埋まっている物でなくてはいかん。その尖った頭の感覚を、長靴の裏で確認しながら探すのがコツなのだ。
「良い筍を採れば、美味しい夕食が食べれるっちゅーことだ」
良いか、妥協をしてはならぬ。疲れたからと言って、適当に目に付いた筍を取るようでは、美味い筍にあり付けぬのだから、そこの所はしっかり覚えておくように。
「はい、すうす」
とくとくと説明する太公望に、神妙な顔つきで楊ぜんは頷く。
本当は「山の斜面の竹林に行くので、危険だから駄目だ」と言われたのに、駄々を捏ねて一緒について来た。その代わり、ちゃんと言う事を聞くと、ちゃんとお手伝いをすると約束したのだ。
だから、連れてきて良かったと思って貰う為にも、ここは頑張らなくては。楊ぜんは気を引き締めるように、太公望とおそろいの首タオルを、きゅっと握りしめる。
「よし。では、はじめっ」
合図と共に、二人の筍探索が開始された。
何と言っても今が旬の、初夏の味覚の代表格だ。
筍御飯は定番だし、天麩羅も美味かろう。おかか煮はお約束だが、中華炒めだって外せない。田楽風にシンプルに焼いたものに味噌を乗せてもイケそうだし、食べ切れない物は水煮にしておけば保存も利く。そうか、いっそ浅漬け風にしても良いし、メンマも作ってみようか。でもやっぱり採りたての今日は、贅沢に刺身で決まりだな。そうそう、帰ったら、日本酒も冷やしておかねばな…。
「すうすーっ」
「おお、楊ぜん。もう見つけたかっ」
でかしたぞっ。鍬を肩に、うきうき振り返る太公望に。
「はい、これっ」
すっごくきれいだから、すうすにプレゼントです。
差し出されたのは、清楚な鈴蘭の花。どうやら木陰に咲いていた物を見つけ、摘んできたらしい。
見つける物が違うであろうが。喉元まで出かかるそのツッコミは、天使のごとき満面の笑顔と、きらきらさせて此方を見上げる無垢なる瞳に押し留められ。
「…ありがとう、楊ぜん」
ぴう、と流れる向かい風に、煽られる前髪を遊ばせたまま。とほほと太公望はそれを受け取った。
「うれしいですか?すうす」
「うむ…うれしいよ」
「よかったです」
じゃあ、僕もっともっと探してきますね。
「ああ、楊ぜんっ」
探すのは、そっちじゃなくて。
呼び止められ、小さい背中が振り返る。
いたいけなる幼き瞳は、実に雄弁。すうすうれしいでしょ、すうすきれいでしょ、すうすほめてくれるでしょ、すうすよろこんでくれるでしょ…。
「…………足元に、気をつけてな」
「はいっ」
筍狩りは、まだ始まったばかり。



最初に思ったよりも長くなりました。
これなら、もっとコンパクトにまとめた方が良さそう。
あと、微妙に読み難くい?ネットを意識して、改行を増やすべきか。
そして相変わらずラブが苦手…これ、本気で何とかしなきゃな。

コメント一覧

さき 2009年06月16日(火)01時12分 編集・削除

うわーこれ、
うわーこれ!!!!!!(大興奮)

すっっっごく可愛いです。定番と言えば定番の筍狩りの一幕ですが、楊ゼンを子供にしたのが大正解ですね。「向かい風」はとほほーとなる師叔の心情をよく表していますし、「鈴蘭」も非常に無理なく愛らしいかつちょっとずれたプレゼントとしてアクセントが利いています。何より「すうすうれしいでしょ、きれいでしょ、ほめてくれるでしょ、よろこんでくれるでしょ」ときらっきらの笑顔で訴えかけてくる子楊ゼンの顔が目に浮かんでくるようです。やばいです。めろりです。わかるわかるわかるこの、子供の褒めてもらいたくて仕方ない顔!お見事としか言いようがありません。今回ここが一番ツボでした。
あとは筍の食べ方の描写の執拗な感じがcottonさまの食へのこだわりを彷彿とさせます(笑)基本は受け手の想像にゆだねるタイプのcottonさまの文章の中で、非常に際だっている食描写((笑))そういえばコスメ描写も精緻ですものね。いやーこだわりってやっぱり文章に出るんですね~(何かちがう)。

何はともあれ大変ごちそうさまな一品でした!
美味しく頂きましたvありがとうございました!

cotton 2009年06月17日(水)00時04分 編集・削除

こんばんは、さきさま。
とっても嬉しい、そして非常に的を得たお言葉、ありがとうございます。

ええ、食いしん坊万歳です。食べる事大好き人間です。食べ物小説は永遠の憧れです。
書いている最中はネットのレシピサイトを参考にしましたが、
間違い無く一番お腹が空いたのは書いている当人でございましたとも。
読んでいてお腹が空きそうな文章を目指したのですが、自分がそうなってどうする…。
ちなみに、浅漬けとメンマ以外は、今年の食卓に上がりました。
輪切りにした筍に白みそソースとカマンベールチーズを乗せ、
オーブンで焼いたものは、非常に美味でした。母、すげえ。

書きだした当初は、こう、二人でおそろいの長靴、首タオル、
農家さん風ツナギ姿(オーバーオールでも可)…な描写もしたかったのですが、
見事撃沈しました。細かな描写が、やっぱり苦手みたいです。
でも、きらきらおめめのちび王子を、さきさまに伝える事が出来たのは大成功。にやり。
課題は残りますが、今後とも日々精進致します。

いつもいつもさきさまのお言葉は、凄く嬉しく思っております。
心の糧を、本当にありがとうございます。
そして、メール&コメント下手な私をお許しください、よよよ。