記事一覧

貴方という呪縛

9月のお題「月光」より、小噺。

ジャンル違い、要注意。
以下、楊太小噺です。



月の丸い夜だった。
「いい加減、収穫せねばのう」
秘密の森で、月の光を浴びて実を結ぶ、満月のように丸い特別な桃。
もう少し、あともう少しと思う内に、実はもうすっかり完熟してしまった。
丹精込めて育てたその果実を採ると、最後の収穫にさやさやと木の葉が鳴る。
大振りの桃は、薄皮を剥くとほんのりと光っていた。
金色と銀色の、ちょうど中間の色だった。
「お主が苦しみから解き放たれるように、わしが作ったのだ」
両の手で包み込み、捧げるように差し出されるそれに、恭しく歯を立てる。
特別な桃は、喉を通ると、しゅわりと炭酸のように弾けた。
ああそうか、これが月の光の味なんだ。
冷えた甘さの中には、少しだけ、三日月のように突き刺さる苦味が含まれていた。



あれは幻だったのだろうか。

実際、あの時のかの人の姿は、僕の知る誰とも輪郭は一致しない。
真昼に浮かぶ月のように朧な記憶は、単なる夢だったのかもしれない。
でもこんな月の夜には、不意に僕の心の袖を引く。
そして、痛みに似た何かと共に、残像が胸の奥を掠めて消えるのだ。



ファンタジー調にするつもりだったのに、このありさま。
どうも最近、書きたいものが書けずストレス気味。
書きかけも沢山あるし、じっくり腰を据えてお話を書きたいなあ。

色白で可憐な乙女

9月のお題...彼岸花・月光・無花果

「彼岸花」
細い指先で束にする。振り仰いだモノクロームの空、戦闘機が雲を描いた



ビジュアルが先に頭に浮かんで出来ました。
ロ○テのキャンディー「小梅ちゃん」で有名な林静一氏とか、
「夜は短し歩けよ乙女」の文庫本の表紙の中村佑介氏とかが描かれる、
レトロで、線が細くて、たおやかな女の子の横顔を勝手にイメージ。
両氏のファンには平謝。

上の歯は楽らしい

8月のお題

「シャボン玉」
壊れて消えず、広がり、沁み渡り、蒼天の輪廻へと同化した



親知らずを抜きました…これで二本目…あと半分…鬱。
でも、前回に比べると、やや心の余裕はありましたよ。
うがいコップを持った時、相変わらず手は震えていましたけどね。
麻のワンピースに染みが出来るぐらい、汗をかいてましたけどね。
いままで避けて、逃げていたツケが回ってきたとは言え、
この歯医者通いは、一体いつになったら終える事が出来るんだろう。
…もう、堪忍して(涙)

無自覚散財症候群

8月のお題

「夏祭り」
囃子は遠く響き、暗闇の狐目は、まんじりともせずにこちらを窺う



今年は夏のセールに行ってないよな…とクロゼットをチェックしていたら、
意外なぐらいに買い物をしていてびっくり。えー、こんなに買ってたっけ?
数だけでみると、去年よりも全然多いかも知れないぞ。
気が付けばお財布がすっからかんになってた理油が、今解明されました。

壊れて消えた

8月のお題、「鬼灯」「夏祭り」「シャボン玉」より、小噺。

ジャンル違い、要注意。
以下、楊太小噺です。



「ただいま、師叔」
「お帰り、楊ぜん」

最近、帰宅がやたら早くなった。残業は極力避け、帰宅途中に近所のスーパーに寄るのも忘れない。同僚に気味悪がられるほど、規則正しく毎日まっすぐ家に帰る。
理由は、彼だ。
「のうのう、桃は買ってきたのか」
「ありますよ、はい、師叔」
買い物袋から取り出すそれを差し出すと、彼は実に嬉しそうに笑う。
テーブルに乗り上がり、自分の頭よりも大きなそれを、両手で抱えるように抱きしめて頬擦りした。

師叔は、何の気なしに買った、鬼灯の実から出てきた。
小憎たらしくて、口が悪くて、我儘で、食いしん坊で、気まぐれで、そしてとても可愛い。
彼のお陰で、味気の無かった毎日が、酷く楽しく思えるようになった。
それは、どれを取ってもさり気無いものばかりだけど…家に帰ると電気が付いていたり、面白い映画を見て感想を言い合ったり、美味しい料理を分け合ったり、声をかけると返事が返されたり…でも、どれも今までの自分の生活には、欠けていたものであった。
どうやら自分は、自分が自覚していたよりも、一人の生活が寂しかったらしい。
彼にそれを知らされるまで、全く気付かなかった事だけど。

「む、何だこれは」
スーパーの袋の奥に押し込まれていた、それに気が付いたようだ。
大好きな桃を隣に置くと、よいしょと身を乗り出し、袋の中へと頭を潜り込ませる。取り出したのは、瓶を形取った、極彩色の安っぽいプラスチックケース。子供用の玩具のシャボン玉だ。
昔懐かしいそれに、ほお、と師叔は目を瞬かせた。

庭に面した窓を開け、ケースの蓋を開けると、付属のストローを差し込んで。
「はい、どうぞ」
支えてますけど、大丈夫ですか?
「うむ」
子供用のストローも、小さな彼には頬張る程に大きい。大口を開けて咥えると、師叔は思い切り息を吹きかけた。
ストローの先からは、オーロラ色のシャボン玉が、無数に宙へと吹き飛ばされる。黄昏空の色をそのまま映し出した儚い半透明の球体は、ふわりふわりと夏の庭を漂った。
「綺麗だのう」
「そうですね」
いつも利用している駅前スーパーは、只今絶賛夏祭りキャンペーンの真っ最中だ。そのくじ引きに参加したのだが。
「参加賞は、これだったのか?」
「一等は南の島の旅行券で、二等は高級桃の詰め合わせだったんですけどね」
結構狙っていたのに、残念です。
「お主のくじ運も、随分乏しいのう」
かかか、と笑う師叔に、わざとらしく目を見開く。
「僕、くじ運は良いんですよ。もの凄くね」
「これでか?」
「だって、ほら」
つん、と指先で小さな鼻先をつついてやる。
「僕のくじ運って、最高じゃないですか」
何と言っても、ここに貴方がいるんですから。あんなに沢山の鬼灯があった中から、貴方を当てたんですよ。
にっこりと優しく笑うと、師叔はじいっと見上げてきた。
そして、はっと思い出した様に我に返ると、落ち着きなく視線を動かし、もごもごと口の中で何かを言う。聞きとれない音量に、何ですか?と顔を寄せると。
「だったら、わしの方がくじ運が良いのだっ」
あれだけ沢山の人の中から、お主に当たったのだからのう。
怒ったようにそう言うと、誤魔化す様にシャボン玉のストローを頬張った。
真っ赤に膨れた師叔の頬は、ほんのり朱い。成程、やっぱり、彼は鬼灯の精かも知れないな。だってその色は、夕焼けよりも、熟れた鬼灯の色に近いじゃないか。

彼の作るシャボン玉は、大きく膨らみ、宙へ漂い、そしてぱちんと跡形も無く消えた。
もうすぐ夏が終わる。
庭の隅には、枯れ始めた鬼灯の鉢植えが、静かに佇んでいた。



最初は「鬼灯」だけのつもりでした。

その手を掴んで

8月のお題、「夏祭り」より、小噺。

ジャンル違い、要注意。
以下、悟チチ小噺です。



櫓を建て、飾り付けをし、出店の準備をして、夏祭りはささやかに、和やかに催された。
都から離れた田舎だけに、住民の殆どが高齢者の村である。
そんな中、体力のある若い力持ちは、随分重宝された。
大食漢の胃袋を支えた料理の腕は、酷く喜ばれた。
新参者の新米夫婦が、この村に受け入れて貰えたのだと実感できて、嬉しかった。
生活をするこの場所で、皆の役に立てた事が、必要とされた事が、誇らしかった。

「夏祭りなんて、オラ初めてだったぞ。すげえ、楽しかったな」
祭りの終わった帰り道、そう言って夫は無邪気に笑った。

通常人が生活を営む中どうしても何ら形で社会や地域に関わりを持つ。
しかし彼には、生まれた時からそれがなかった。
祖父亡き後は一人で、山を出た後は、そのまま修行三昧の生き方をしてきた彼だ。
それが悪いとは思わないが、酷く寂しい生き方だ、と思えた。
確かに夫は、普通では考えられないような経験もしている。
生死を渡り合った、真の友達がいる事は知っている。
その力が神さえも超え、世に尊ばれる事も知っている。
だけど、この人には「根」が無い。
浮いているのだ。

夏祭りなんて、田舎でも都会でも、何処でだってある。
でも多分、夫が知らないのは夏祭りだけで無い。
自分は、ささやかでごく普通の経験を、当たり前に親が与えてくれた。
しかしそんな時、彼は黙々と肉体を鍛える事だけに、全てを費やしてきたのだ。
ただ一人、この世の「当たり前」さえ知らず。
誰かに何かを与える事も、与えられる事も、日常の中で必要とされる事も無く。

「なあ、悟空さ」
「ん?」
「来年も、再来年も、その先も、また一緒に夏祭りに参加しような」
「ああ、そうだな」
自分は、彼を繋ぎ止める、杭にならなくてはいけない。
今はもう、世の中は平和になったのだ。
彼が犠牲となり、たった一人で世界を背負う必要はない。
ふわふわと浮いてしまう彼の腕を、人として生きる為に、繋ぎ止めなくてはいけない。
「来年の夏祭りも、楽しみだな」
当たり前の幸せを与える事が出来るのは、彼にとっての家族である、自分なのだ。



走り書き。
生物学的に、人間は群を成す動物だそうです。単体では生き残れない。
もっときちんと練って、形にしたいエピソードの一つ。

両親に感謝する日

8月のお題...鬼灯・夏祭り・シャボン玉

「鬼灯」
黄昏時の向こうに、茜色の提燈が灯る。黄泉の道へはどちら?



先日、サプライズでお誕生日のお祝いをしてもらいました。
プレゼントを送ってくださった某御方にも心より感謝。
とってもとっても嬉しかったですv

夏休みのまっただ中に誕生日を迎えるので、
子供の頃は友人にお祝いってしてもらう事は殆ど無かったんですよね。
この年齢になると誕生日なんていらない!とも思えちゃうけど、
それでもお祝いしてもらえると、照れくさいけど、やっぱり嬉しいです。

手を差し出されて

7月の御題

「流れ星」
落ちてきた金平糖ぱくり、しゃっくりという名のビックバンひとつ



バスに乗っていたら、隣に座っていた人が降り際に、
こちらに握手を求めてきました…何だったんだ、あれ。
知らない人だよね?多分。いや、しましたけどさ、握手は。

七夕を逃したよ

7月のお題、「流れ星」より、小噺。

ジャンル違い、要注意。
以下、楊太小噺です。



ある日、師叔が流れ星を拾ってきた。
全く。何でもすぐに連れてきちゃ駄目って、いつも言っているのに。
「だって目の前に流れてきたのだ」
仕方なかろう、それにこんなに綺麗なのだぞ…唇を尖らせ、そう主張される。
ひとまず流れ星は、竹細工の小さな虫籠に入れた。
夜、窓辺に置くと、流れ星は綺麗な光を放つ。
それを、家中の電気を消して、二人肩を並べて眺めた。
流れ星の光は一つ。
眺める僕らは二人。
小さな虫籠の中、ぽつりと輝く光はひとりぼっち。
瞬く仄かなそれは、まるで誰かを呼んでいる声の様だ。
「誰かを探しているみたいだのう」
どうやら師叔も、同じことを感じたらしい。
突然無性に切なくなり、確かめるように、そっと隣の手を握った。

翌日の夕暮れ、虫籠を持って二人で散歩に出掛けた。
流れ星を拾った場所で、虫籠の扉を開けたのは師叔だ。
瞬きながら、流れ星はひらりと何処かへ流れていってしまった。
「ひとりぼっちでは寂しいからな」
空を見上げて師叔は呟くと、そっと僕の手を握ってくれた。
その帰り道、僕らは空に沢山の流れ星を目撃した。
無数に流れる光の線は、夏の夜空にとても綺麗だった。



ファンタジーでも良し、蛍でも良し。
中国には竹細工の虫籠売りさんがいると、聞いたような。
深く考えずに書き始めたら、変な方向に行ってしまいました…あれ?
あまり楊太さんで書く意味は無かったな。

散財無自覚症候群

8月のお題

「夏祭り」
囃子は遠く響き、暗闇の狐目は、まんじりともせずにこちらを窺う



今年は夏のセールに行ってないよな…とクロゼットをチェックしていたら、
意外なぐらいに買い物をしていてびっくり。えー、こんなに買ってたっけ?
数だけでみると、去年よりも全然多いかも知れないぞ。
気が付けばお財布がすっからかんになってた理油が、今解明されました。

ページ移動