ちょっと遅いですが、蜷川幸雄さんの訃報に、お悔やみ申し上げます。
そうか、もう二度と蜷川演出の「身毒丸」が見られないんだな……ショック。
自分の中で、価値観を変えた作品トップ5の中に、常に駐在する作品でした。
寺山氏の原作ありきだとは思うし、天井桟敷の演出も勿論素晴らしいのですが、
最初に見たのが蜷川演出だったし、比較的舞台を知り始めた頃に観た作品だし、
未だに自分の中で色褪せず、今も時々DVDや動画サイトで見直したりします。
個人的には藁人形のシーンは、蜷川演出の方が好きでした。
因みに他は、野田氏の「贋作・桜の森の満開の樹の下」(自分の原点)と、
維新派作品全般(件の蜷川氏が嫉妬した特別で唯一無二の才能)。
バーコフ氏の「変身」&「サロメ」(アートな舞台作品の最高峰のひとつ)、
三谷氏の「12人の優しい日本人」(喜劇を見直す切っ掛けとなった作品)かな。
舞台演劇らしく、でも窓口が広い演出……というのでしょうか。
たまに、「これなら劇場じゃなく、ドラマとか映画で良いんじゃない?」的な
舞台があります。舞台に馴染みの無い方への入門編的な、比較的ライトな舞台。
解りやすいし、客層を広げるにも良いのですが、舞台好きには微妙に物足りない。
だからと言って、舞台的演出があまりにもディープ過ぎると、
固定層のハートはがっちり握るのですが、慣れない人には理解できず難しい。
そんな中、蜷川氏の演出は、その辺りのさじ加減が絶妙でバランスが良く、
窓口は広め、でも舞台好きにも充分満足感がある、そんな舞台が多かったです。
蜷川演出と銘打って集客が望める数少ない演出家、と言われるのは多分そこ。
この手のバランス感覚を持つ演出家って、実はかなり貴重かと思われます。
役者的にも、蜷川作品の出演は、一種のステイタスになっていましたよね。
厳しいことで有名ですが、それでもそこで叩き上げられ、鍛えられ、
磨き上げられるという、充分な価値ある経験を得られるのでしょうね。
それにつけても、また再演するだろうと見逃した蜷川舞台のなんと多いことか。
舞台は一期一会。解っていた筈なのになあ。自分に往復ビンタですよ。
素晴らしい舞台と、忘れられない感動を、本当にありがとうございました。
心よりご冥福をお祈りします。