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手作りの差し入れ

9月のお題、「クッキー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



受け取ったのは、可愛らしいラッピングをされた紙袋。
中を開くと、手作りであろうクッキーが入っていた。

でも、あれ、誰だ?下級生って言ってたっけ。
良く覚えてねえや、次に会っても判んねえかもな。

校舎の屋上で一人、ぼそぼそとクッキーを頬張る。
味は良く判らない。多分、美味しいのだろう。
ああそうだ、今度チチにクッキーを作ってもらうか。
以前食ったチョコの入った奴は、すげえ美味かったもんな。

空っぽになった紙袋は、ゴミ箱に放り込んだ。
誰にも判らないように、くしゃりと丸めておいた。



多分中学生か高校生。結構酷い男だと思う。
自覚は無いけど、無意識にチチさんには内緒にしておく。

お酒臭い息をして

9月のお題「お茶漬け」「クッキー」「コーヒー」

「お茶漬け」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、楊太です。



出されたお茶漬けを口にして、思わず眉をしかめた。
つんと鼻を通り抜ける独特の香りに、恨みがましく視線を向ける。
しかしこの男は判ってやっているのだろう、
寧ろにこにこと爽やかな笑顔をこちらへ向けるだけ。

「おぬし…怒っていないと言ったではないか」
「ええ、怒っていませんよ」

どの口がそれを言うか?
見た目はいつもと変わらぬ癖に、
つんと鼻を通る辛味が見え隠れしている。
むすっと顔をしかめたまま、わさびの香りのそれを、
半ばやけくそのように、その夜食をかき込んだ。



今日は早く帰るって言ったじゃないですかっ!

酔わせてみたり

8月のお題、「ビール」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、楊太です。



これでも、いろいろ考えていたのだ。
出張だって一人でも良かったが、二人で始めた件だからと許可を取って。
今日で最終日だし、折角だから部屋で祝杯をあげるか…なんて誘って。
シャワーも浴びて、浴衣に着替えて、ベットの上で話をして。
こう、少しは互いの距離も近くなって、お互いの警戒心も薄れるかなーと。
その上、ちょっとお酒の力も借りて、勢い付けたらいいかなーと。

「なのに、なーんでお主が先に酔い潰れるのだ」

サイドテーブルの上に転がるのは、空き缶の山。
ベットの上で呑気に寝息を立てる、綺麗でお気楽な寝顔を見下ろし、
冴えた頭でぬるくなった缶ビールのプルトップを開けた。



今日は朝は機嫌が悪いみたいですけど、何か怒らせることしましたか?

きみの代わりに

8月のお題、「アイスクリーム」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、ヘタリアです。



時々、衝動的に泣きたくなる時がある。
兄ちゃんには、おめーは感受性が高過ぎるんだ、と言われた事がある。

今もそう。わんわん泣き出したこちらに、黒い瞳が覗き込む。
ああどうしよう、ほら、すごく困っているじゃないか。
それでも涙は止まらない。
ごめんね、ごめんね。でも、どうしていいか判らないよ。
丁寧にハンカチで涙う拭う指先が優しさに、更に涙が溢れてしまう。

怒らないの?呆れないの?なんで、そんなに自分を抑えるの?
そんな君にどうしようもなく悲しくなって、更に泣き声を上げる。
こんなんじゃ嫌われちゃうのに、涙のループは止まらない。

足元に落ちたジェラードは、太陽の熱に溶け、アスファルトで形を無くしていた。



伊日。芸術家所以の、感受性の高さ。

簡単で美味しい

8月のお題「カレー」「アイスクリーム」「ビール」

「カレー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



玄関の扉が開いたと同時に、電話が置かれた気配がした。
顔を覗かせると、電話代の前に立つ父の姿。

「お母さんからの電話ですか?」

その声にくるりとした目を向けて、おお、と頷く。

「じいちゃん、大丈夫だってよ」

でも、念の為にもう少し、向こうで看病するんだってさ。
オラ達も行こうかって言ったけど、大した事ねえって断られちまった。
そんな事より、おめえの勉強の方が心配だとさ。
来週、テストがあるもんな、おめえは。
それが終わったら、一緒に母さんを迎えに行こう。

「もう少し、二人で飯を作んなきゃな」
「はい」

よおし、今夜はオラがうめえカレーを作ってやるよ。
何日目になるのか、同じメニューの夕食に、息子は苦笑して頷いた。



喧嘩で実家に帰った訳ではありませんよ。

責任取りました

7月のお題、「サイダー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



「…できただ…」

絞り出されたその言葉に、へ?と瞬きする。
大学構内のベンチに並んで二人。蝉の声が遠い。
「なにが?」
隣に座る彼女は、決意を感じさせるように唇を噛み締めていた。
膝の上に握りしめられた拳が、微かに震えている。
「赤ちゃん…おらと、おめえの」
見下ろす白い顔は青ざめていた。
見つめられる視線がいたたまらないのか、ぎゅっと閉じられた瞼。
そうか。そりゃあそう言う結果につながる事もやっていたからな。
手にあったドリンクのプルトップを開けると、小さくぷしゅりと泡が立つ。
くびりと流し込むと、甘さと酸味と強い刺激が、咽喉から奥へと伝わった。
全てを飲み込み、その後に胸の奥に広がるクリアな清涼感。
ああ、そっか。青い空を見上げて、軽く頷いて。

「じゃ、結婚すっか」



学生結婚。原作でも、年齢的にはそうですよね。

あんこだいすき

7月のお題、「羊羹」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、ヘタリアです。



忘れっぽい性分なんですよ。
咽喉元過ぎれば熱さを忘れ、水に流してしまうんです。
良い事も、悪い事も。ええ、要するにミーハーなんです。

冷えた緑茶とこの国特有の菓子。
水を連想させるような、つるりと瑞々しい喉越し。
するりと滑り込むそれは、後には余韻さえ残さず咽喉を通る。
ぺろりと二口で食べて、緑茶を飲むと、もう何も残らない。

日差しが強い。
もうすぐまた、あの日と同じ夏が来る。



米日っぽいですが、当人は土日のつもりです。<なんですと?!
地元の和菓子屋さんの水羊羹は絶品です。

突然食べたくなる

7月のお題「餃子」「羊羹」「サイダー」

「餃子」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、楊太です。



スーパーの食料品売り場。
カートを押す彼の隣で、手にしたメモを確認する。
「挽肉…キャベツ…卵…ニラ…強力粉…」
どうやら、同じ大学の留学生から、餃子の作り方を聞いたらしい。
「皮も手作りにすると、すごく美味しいらしいのだ」
「そう言えば、手作りの餃子の皮って食べた事無いですね」
「うむ、わしもだ」
話を聞いた瞬間から、もう頭の中は餃子で一杯になってのう。
これは一度、食べてみなくてはと思ったのだ。

「頼むぞ。美味しい餃子は、お主の腕にかかっておるのだからな」

レジの列に並ぶ楊ぜんの肩を、満面の笑顔でぽんと叩く。
そのまま太公望は、鼻歌交じりにスーパーの外へと出て行ってしまった。
行き場の無い手を彷徨わせ、言いたい諸々をぐっと飲み込む。
そして、溜息をつきながら、楊ぜんは鞄の中から自分の財布を取り出した。



勿論、作って貰う気満々。

そのコントラスト

6月のお題、「ジュース」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、悟チチです。



瑞々しいグレープフルーツが手に入った。
果物ナイフで半分にカットすると、鮮やかなルビー色にふと笑う。
スクイザーで絞ると、百パーセント生ジュースの出来上がり。
爽やかな甘酸っぱい柑橘系の香りが辺りを取り囲み、
ふわりとカーテンを煽る風に目を細めた。
ああ、もうこんな季節か。
窓の外、新緑が溢れ、鳥の声が響き、生命の息吹を肌で感じる。

透明のグラスに、爽やかな果汁を流し込む。
グラスに半分ほどの量は、少々多いかもしれない。
それを片手に、隣の部屋の扉を開いた。

「チチ、ほら、ジュースを作ったぞ」

白いシーツが眩しいベットの上。
ぴくりとも反応しない、染みが浮かび、皺が寄り、骨のように痩せた手。
もう殆ど力の入らないそれに、搾りたてのジュースをそっと握らせた。

外は生命力に満ち溢れ、眩しい。
夏はもうすぐだ。



人はこうして、終焉を迎える

甘くて尖っている

6月のお題、「キャンディー」より小噺。
ジャンル違い要注意。
以下、ヘタリアです。



道に転がるそれを手に取る。
鮮やかな色の滴を吹いた、ガラスのビー玉。ひとつ、またひとつ。
しゃがんで手に取りながら前へと進む、前へ、前へと。
次に手を伸ばした所で、軍靴の群が目の前を横切った。
その向こうに転がるそれに、行列が妨げて手が届かない。
途方に暮れて立ちすくむと。

これを差し上げましょう。

いつの間にか傍らにいたその人は、膝をついて目の高さを合わせた。
そして、袂から取り出したのは、小さな薬包紙。
受け取り、開くと、中には星型の砂糖菓子が数粒入っていた。
綺麗なそれに瞬きして、顔を上げるとその人はもう居なかった。



大阪のおかんの必須携帯アイテム。
雰囲気でさらっとお願いします。意味は求めてはいけません。
一応、日湾だと主張してみます。

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