013瀬戸内国際芸術祭旅行
のんびり探索していたらもうこんな時間! 案内の人に場所を聞いて、
慌てて走って向かったのが、島の海水浴場に設置された特別野外舞台。
今回の芸術祭参加作品の切欠でもあり最大の目的でもある、
劇団維新派公演「MAREBITO」の公演会場です。
すいません、今回は長々と語ります。
劇団維新派とは、松本雄吉氏が率いる関西を拠点とする劇団でして、
劇団員が自ら巨大な屋外舞台を建設し、解体する、大がかりな公演でも有名。
「喋らない台詞、歌わない音楽、踊らない踊り」とも称される独特の演出は、
不条理系ともアングラともまた違う、寺山修司以上に特殊で、
内容の説明が非常に難しい、不思議な舞台を作り上げます。
自分の中で、維新派を見て強く感じたのは、以下の二言。↓
想像力の概念を根底から覆されます。
才能という言葉に打ちのめされます。
自分の中で、頭の中を覗かせて欲しい人筆頭が、実はこちらの演出家松本氏。
場に居合わせ、空気を共有し、体感するこちらは、DVDでは決して理解出来ない、
劇団が消滅すれば再現不可となるであろう、ある意味唯一無二の舞台。
万人にはお勧めできませんが、時代に居合わせた自分は幸運だと思います。
恐らく、伝説になる劇団ですね。
さて、そんな劇団維新派。基本的に物語性の強い作品が好みの自分としては、
維新派に関しては実はかなり当たり外れがあったりします。
今回は芸術祭とポスターの美しさに惹かれて重い腰を上げたのですが、
正直、予想以上に大当たりでした。久しぶりにツボに来たぞ。
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まるでフォトフレームに収められた写真のように、美しい舞台美術。
舞台は空のまだ明るい夕方から始まり、月の輝く夜闇の中で終演。
時間帯、舞台設置場所や背景、月と星、桟橋等々、全てが計算されていて、
この緻密さと大掛かりさは流石野外公演ならではですな。
本作品は、幾度となく公演場所となった、この犬島に対するオマージュですね。
何処までも一際白い透明感、奥行きのある幻想空間、海の向こうの母、
海からやってきた少女、息を止めて会話をする、卵生への生まれ変わり、
宇宙を泳ぐ、縄文人の小柄な男性の骨、太古は陸であった海、戦闘機、
目の覚めるような青い海、そして流れてきたのは果たして……?
ストーリー性が高い作品でないにも拘らず、すごく惹きつけられました。
このノスタルジックで、切ないまでに透き通った世界観は、
恐らく維新派でしか味わえないんですよね。
途中足元に張られた水が、照明で真っ青になる演出には、おお、と思いました。
不思議な喧騒感のある舞台なのですが、最後に残るのは痛い程の静寂の余韻。
いやあ、感動した。来て良かった。素晴らしい。良い舞台に巡り合えました。
でも何に感動したのかと問われれば、口で上手く説明できないんだよな。
圧倒され、衝撃を受け、自分の中の感受性を揺さぶられる、そんな感じ。
多分、維新派を知っている人なら、お解り頂けるのではなかろうか。
「維新派の野外公演は、旅をする時から始まる」とも言われております。
電車やバスを乗り継いで、フェリーに乗って、島に足を踏み入れて、
日常とは違う別の世界へのトリップこそが、維新派の狙いなのでしょうね。